風
塩の香りを含む風を頬に受けながら少年は流れる潮騒を聞いている。
特に何があるわけでもなくただそれは耳に心地よくまるで揺籠に
揺られているような錯覚を覚える。
不意に風向きが変わった気がした…
その風が含む香りはほのかで甘い花の香り…思わず振り向くその視線の先には
風衣を纏ったかのごとく軽やかにたたずむ少女が1人…
ただ偶然に瞳がかち合っただけの2人にどうして言葉が交わせるだろう?
ほんの一瞬…時が止まった。
はにかむ様に少女は微笑み軽く会釈をしてその場をさる。
そう、やはり風を纏うかの様に軽やかに…
しばらくその場を動けずにいた少年は…塩の香を含んだ風が戻って来るに従い
時を取り戻した。