落ちてくるノーブルドーム…しかし…彼女…アルテシアは動く事ができなかった。 |
たった数年過ごしただけとは言え,住み慣れたこのコモンドームの家から…愛す |
る人と,愛する子供と共に過ごしたこの家からどうして立ち退く事ができようか… |
「…お父様やお母様…ロイセルは無事かしら…」 |
しかし,ノーブルドームに住まう自分の両親・弟の事だけは心配ではあった。 |
|
アルテシアの愛する夫が不安げな彼女の肩に手を置いた。 |
そう…いつでも…どんな時でも彼はアルテシアを愛し支えてくれる。 |
どんなワガママも笑って聞いてくれる… |
「…どうしても…ここにいたかったの…帰ってくる事はないってわかっているけれ |
ど…それでも,もしかしたらあの子が…ノエルが帰って来るかもしれないから…」 |
肩に置かれた手に自らのそれを重ね,甘えるように頬を寄せる。 |
|
自らの命を自分のものとする為に… |
自らの死に目に自分達を会わせねように… |
朗らかな笑みで去って行った小さなあの子は今… |
|
…どうか…どうか無事でいて… |
|
命の果てはとうに見えている娘の無事を祈るのは愚か者のする事だろうか? |
|
…母親らしい事…1度だってしてあげた事なかったね… |
|
たった数ヶ月で手を離れた娘を思うのは馬鹿げた事だろうか? |
|
手を離れて行った命を思う度…涙が溢れそうになる。 |
|
…泣くまい… |
|
心に決めた事…娘を思うのなら泣くまい…微笑を浮かべ愛を語ろう。 |
娘が去った理由を考えれば…それは極自然な事…それは親としての義務… |
「…ノエル…あなたは今…幸せ?」 |
例えばそれが…他者が理解しえぬ感情であったとしても… |
この世を去りゆく娘に送る最高の言葉となる。 |
|
「お母さん…誰か…いるよ?」 |
扉を開け語りかけてくる小さな男の子…アルテシアのもう一人の宝物… |
去る事なく側にいてくれた小さな希望。 |
きょとんとした顔を破顔させアルテシアのスカートの裾を引っ張った。 |
「僕、あの子知ってる!」 |
視線の先にいたのは……… |
|
|
光りに縁取られし乙女はどこかアルテシアに似て… |
何も語る事はなく…ただ穏やかにそこにあった。 |
「………………………」 |
「お母さん!早く窓をあけてあげてよ!」 |
息子の言葉に背を押されるように窓を開け放つ!! |
|
「……お帰りなさい……頑張ったね?」 |
両手を広げ光りを抱きしめ……………………………………………… |
|
「…お帰り…ノエル…」 |
END