色褪せぬ硝子の欠片    
 物語の終焉から十数年後…本来なら語られるべきでない事かもしれない…
しかし…物語は突然再開する…とても奇妙な形で…

それは突然舞い込んできた。
1つの石文…これ事態はいつもの定期的な連絡手段と変わるは事なく,
淡いクリアピンクの小さな石…
そしてその内容とは……
母親から届いた石文を読み取ったリアージュは微かに残る父と母の姿を見て歓喜した。


「おじ様!カレヴおじ様!!お知らせです!これを見てください!!」
そう言いながらカレヴ…ジュカ族のカレヴ・チセラフューダの腕の中に飛び込んできたの
はカナンには珍しい桃色の髪の少女リアージュだった。
彼女を見た時…
『ミルフィスさんの白とあの人の赤とで桃色ですか…あの人達らしく単純ですね…』
と思ったのは秘密である。
「…見てくれといわれても…石文はカナンにしか読み取る事はできないでしょう?」
興奮するリアージュを宥めすかしカレヴは穏やかに切り出した。
「いつも通り読んで聞かせてください。何と言っているのですか?」
「はい!実は……………………………」
リアージュの…もといミルフィスの『お知らせ』を聞きカレヴはおののいた…
そう…心のどこかでは思っていた…もう2度と会う事はないだろうと…
まさか,またあの時間が戻ってくると言うのだろうか?

『 大切なリアージュへ
 リアージュ,怪我や病気はしていませんか?良い子にしていますか?みな様に
 ご迷惑をかけてませんか?母様はいつもあなたの事を思っていますよ?
                 …(中略)…
 …ところで…今度父様と母様はそちらへ戻ります。
 カレヴ様やカーリエラお姉様方にもその旨を伝えてもらえませんか?
 よろしくお願いしますね。

 では…成長したあなたに会う事を楽しみに…

                                      ミルフィス   』

 まさか…ミルフィスが帰ってこようとは…
嬉しくないわけではないが,どこか複雑な思いを隠せないカレヴであった。
「カレヴおじ様,私カーリエラお姉様の所にもお知らせしてきますね!」
軽やかにリアージュはきびすを返すと隣りの家へと歩みを進めた。
「…なぜ私がおじ様で…カーリエラがお姉様なんでしょうね…」
思わず現実逃避的にカレヴは呟いていた…

 ミルフィス達がシャンドラに戻ってくると言う知らせを受けて数十分…
チセラフューダ家の扉を勢いよく叩く音…
カレヴはちょうど彼の妻や子供達は買い物に出かけ留守である事を思いだし…そこへ向かう。
『誰でしょうね…カーリエラ達ならノックなどせず入ってくるでしょうに…』
扉を開けると同時の飛び込んできたのはカナンの規格をはるかに越えた巨漢の青年だった。
「すまない!ミルフィスはここへ来ているか?!」
「…あなたは…」
青年はらしくもなくその顔を青ざめさせ息まで切らしていた。
「すまない…挨拶もせずに…だが…!!!」
「落ちついてください。一体何があったと言うのです?」
カレヴの問いに青年は深呼吸をし息を整える。
そして語り出した…以下ミルフィスと青年…ミルフィスの夫の会話である。

『…もうここまで来ましたら,シャンドラまで後少しですわよね?』
『ん?そうだな…もう少し…休憩は取らなくても大丈夫か?』
『はい,わたくし旅に出て少しは体力もつきましたのよ?それよりも早く…』
『…そうか…そうだな…早くみんなにも会いたいな…元気にしてるだろうか…』
『…本当に…みな様にも…リアにも早く会いたいですし…そうですわ!!』
『どうしたんだ?ミルフィス?』
『わたくし先に戻っていますわ!!先に戻ってあなたをお出迎えいたしますわ!』
『ははは…ありがとう。けど,それは…どう考えても飛竜の方が早くつし無理…』
『善は急げ!!ですわ!!わたくしは妻としてあなたをお出迎えします。後から
 みな様とゆっくり来てくださいませね?』
『ちょっと待て!!ミルフィス!!幻獣を出すのには体力を…!!!』
…そう言うとミルフィスは自らの幻獣であるペガサスを呼び出し青年の静止を聞かず
飛び出して行ったと… 

カレヴは頭を抱えた…よっぽど慌てていたのだろう…夫婦の会話を一人二役で感情を
込めて演じた青年(つまりミルフィスのセリフも事細かに再現した。)にも頭痛を感じ
ていたし…何年たってもかわらないミルフィスの思い込んだら即実行さ加減にも…
「すぐに追いかけたんだが見当たらなくて…道に迷っているのか体力が尽きてどこか
 に転落しているのか…ミルフィスの寄りそうな所を一通りまわってきたんだがどこ
 にもいなくてな…」
心配そうに顔を顰める青年を見て…
『この夫婦は砂漠で一体どんな生活をしていたのだろう?』
…と思わずにはいられないカレヴであった。
「とにかく,私も心当たりを探して見ましょう。まったく人騒がせな人達ですね。」
『この人で見当がつかないのに私にわかるのか?』
溜め息をつきながらカレヴは青年にそう告げる。
それに答え青年は苦笑いを浮かべながら『すまない』と返した。


 一通りカレヴはミルフィスの寄りそうな所を当ってはみたが案の定,既に青年が訪ねた
後であり,とくに有益な情報も得られなかった。
時間ばかりが過ぎてゆき…そのうちカレヴ自身も疲れを感じはじめる。
「大体…待っててくれとミルフィスさんが言ったのなら素直に待っていれば良いのですよ。
 あの人があんまり一生懸命だったから思わず探し廻ってしまいましたが…」
そう,カレヴ自身は迎える立場なのである。
ならば待っていれば良い…迎えに行くほど過保護にならなくても良い…
それはある種の信頼か…それとも投げやりとも言えるのか…
『しかし…あの人は思いの他過保護なのですね…』
不意そうに思考に上がったがすぐに打ち消した。
過保護ではなく…ミルフィスの言動を側で見ていればそうならざるをえない…
小さく息をつきカレヴはミルフィス探しを中断し家路についた。 

『…ああ…そうですね…隣にも…カーリエラにもミルフィスさんの事を話しておい
 た方が良いでしょう。』
そう思ったカレヴは隣の家の扉を叩く…前に気がついた…楽しそうな笑い声と話し声…
『ああ…まさか…こんなお約束めいた事が許されて良いのか?!』
誰にもぶつける事ができない拳を扉に向かって振り下ろす。
「は〜い,あらカレヴいらっしゃい。」
カレヴを迎えたのは…年齢を重ねたと言ってもまだまだ白銀の髪も美しい
ウィズ・ムーの女性…
「カーリエラ…少しお聞きしたいのですが…」
「カレヴ!驚かないで聞いてね?実はね?」
カレヴの言葉を遮って,カーリエラは興奮気味に話しを進める。
『驚くな』とは言っているが,明らかにその顔は『驚いて欲しい』と告げている。
そして…それが何を意味しているのか…

「カレヴ様!!お久しぶりです!ただいま帰りました!!」
コロコロと心地よい声音と共に白い物体がカレヴに向かって突進してきた。
「え?」
カレヴは思わず…本当に反射的に身体をそらしそれを避ける。
“がっしゃ〜〜〜〜〜ん!!!!!!!”
大きな音が辺りに響き綺麗に掃除されている部屋にも関わらず埃が舞う。
「ミルフィス?!」「母様?!」
カーリエラと遊びに来ていたリアージュが驚き声をあげる。
「ううう〜〜痛いですわ。カレヴ様…酷い…」
心配された白い物体ミルフィスは盛大にうった鼻の頭をさすりつつ目に涙を溜めた。
「カーリエラお姉様はきちんと受け止めてくださったのに〜〜」
「それはすいませんでしたね。けれどいきなり突進してくる方も悪いのですよ。」
ますます勢いを増したミルフィスにカレヴは手を差し伸べる。
ミルフィスはにっこりと微笑みその手を元に今度こそしっかりとカレヴに抱き付いた。
「ミ,ミルフィスさん?!」
「ただいま帰りました。お約束通りわたくし帰ってまいりましたの。」
ギュッと抱きしめた後ゆっくりと離れ…微笑む瞳の端に光る雫を輝かせながら。
「……………………」
「ふふふ,驚いて声もでない?私は驚いたわ!リアージュに聞いてはいたけれど…」
2人のやり取りに笑顔を見せていたカーリエラも軽く瞳の端を拭う。
「…お帰りなさい。ミルフィスさん…」
あまりの事にやっとの思いで振り絞ったカレヴの言葉だった。

心のどこかで思っていた…『もう2度と会えないだろう』と…
戻ってくれば良いと事も無げに言ったけれど…それでも…心のどこかで…

「………カレヴ様………変なお顔………」
思想にふけるカレヴにミルフィスは臆面なく突っ込んだ。
「…人が感慨にふけっているのにそう言う事を言う口はこれですか?」
あくまでもにこやかに…優雅にカレヴはミルフィスの口の両端を持ち上げる。
「カ,カレヴ?そんなことをしたら口が…」
「ふにゃふにゃ〜〜かれうひゃまひたひでふわ〜」
カーリエラに止められとりあえずミルフィスの口は広がりきる事はまぬがれた。
「うう…痛い…でも…カレヴ様変わっておられなくて良かった。」
自分の頬をさすりつつミルフィスは嬉しそうに言う。
「……変わりませんか?」
「はい,変わりませんわ。カレヴ様はカレヴ様のままです。」
あれから幾度の季節が移り変わっただろう。
変わらぬものはない…子供達が成長した様に,自分もまた…
目の前のカナンの女性こそ,多少大人びてはいたが変わりなく…
「カレヴ様も,カーリエラお姉様もおかわりなく!本当に嬉しいです。」
本当に嬉しそうに微笑んでいるミルフィスが嘘をついている様にも見えず
にカレヴはしたたか困惑する。

この人はいつもそうだ…自分にしかわからない理論で納得しそれを他者に強要する。

カタンと席を立ちカレヴはミルフィス達に背を向けた。
「どうしたの?カレヴ?」
美貌のウィズ・ムーは不思議そうに尋ねる。
「どこかの誰かが自分の独断的行動せいでその誰かの最愛の人であろう人が血相を
 変え私に捜索を頼んできたのですよ。ここにいる事をとりあえず知らせなければ
 ならないでしょう?」
少しのイヤミをこめカレヴはそう言った。
すでに探しまわる青年の事などもうどうでも良くなってきていたのだが,
とりあえず今はこの場を離れたかったから…


 なぜかカレヴの後ろをついてくるミルフィス…その理由は…
『わたくしが一時でもあの方の元を離れたのは“お帰りなさい”を言う為でしたの!』
と,押し切られたのもある。まったくもって自分勝手な女性である。
今日半日この夫婦に翻弄されたかと思うと少なからずの怒りがこみ上げて来るのは
正常な精神を持つ人間である事の証明であろう。

「まったく…はた迷惑な夫婦ですね。」
ミルフィスの姿をみる事なく投げかける言葉…
「申し訳ございません。」
そう言いながらも嬉しそうなミルフィスにカレヴは思わず不信な視線を投げかける。
「なにがそんなに…」
「だってカレヴ様と2人でお話しするの久しぶりなんですもの。」
臆面なくそう言うミルフィスは確かに変わってはいないだろう。けれど…
「変わらぬものは…」
「ありますわ。姿形は変わっても…カレヴ様はカレヴ様…わたくしにはわかるのです。」
それは他者より長く生きるものだからこそわかり得る感情なのか…
「そう言うものですか?」
自分にはわかり得ない事を論議するのはおかしな事であるから…
肯定でも否定でもない疑問を投げかける形で会話を終了させる。
「そう言うものですわ。」
小さな声でこっそりとミルフィスは告げた。

「カレヴ様?わたくし…きっと…どなたよりも長生きいたしますわ。」
突然決意を込めて話し始めるミルフィス。
「わたくし…どなたよりも…長く生きてそして…ジェイドとしての本分…
 “歴史の担い手”として…皆様の生き様をある事ない事綴っていきますわ!」
「はぁ?!」
あまりに突拍子もない事を言うミルフィスに思わず奇妙な声を張り上げる。
じっとカレヴを見詰めそしてニッコリと微笑む。
「カレヴ様よりもカーリエラお姉様よりも…あの方よりも…共に戦った皆様よりも…
 わたくしはずっと長生きして…」
微笑む顔に力がなくなる。
頭では理解していた…けれど…感情がついていかない。
ここまで刻の流れの違いを見せつけられてしまっては…

「……残されるのは……寂しいですか?」
「……置いていくのは…いかがです?」
お互いに答える事はなかった。
それはお互いの…ジュカとカナンの生きる長さは目に見えるほど違い…
そしてカレヴとミルフィス自身の価値観が違うのだから…
けれど,それに対し理解できないわけでもなく。
おそらく暗黙のうちに理解しいえている…のかもしれない。

「まぁ,何はともあれ…ある事ない事書きづつられたくなければなるべく長く生きて
 くださいませね?」
ミルフィスがなにかを吹っ切るように笑顔を見せ…
「善処しますよ…」
それにつられるように苦笑いを送るカレヴ…
そう…寂寥感を感じるのはまだ早いのだから…

ゆっくりと夕日が沈み,辺りを闇が支配して行く…
辺りがすっかり闇におおわれた時…
ミルフィスはやっと念願の…
『お帰りなさいませv』が言えたとかなんとか。


…後日…ミルフィスはカレヴにこっそりとこう告げたらしい…
『ねぇ?カレヴ様?わたくしは…送る側で良かったと思いますの。
 だって…わたくしがむこうへついた時…皆様にお迎えしていただけますでしょう?』
いかにも…と言うミルフィスの言葉にカレヴが珍しく声を立てて笑ったと…

果たしてこれは嘘か真か??

 続けられた物語は数あれど…全てが事実に基づくかどうかはわからない。
突然再開された物語はやはり怪しいかたちで終わりを告げる。

けれど…ここに語られた感情や想いは全て本物である事を…
記憶者が保証いたします。

End

これはぢぞお様のサイトの10000Hit祝いのプラテです〜
栄えある10000Hitを踏ませていただいた心ばかりのお礼の品…でもあるのです(笑)

PBM(プレイバイメール)のキャラクターの個人的なお話しです。
…わからない人には何もわからない話し構成になっている…と思います。
ごめんなさい。

しかし…何だか…
懐かしすぎてこっ恥かしいです(笑)


ちなみに…「シャボン玉」・「星空」両方にアップしております☆

コロカ
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