甘い香りは罠。

唇が甘いのは、きっとそのせい…

それでも抜け出せないのは、罠すら甘いから…

甘さに溺れてしまうから…



Kiss me on the strawberry lips
〜On the lips快青編〜



「快斗〜!!」

青子がお気に入りの雑貨屋の店内。

青子がオレを呼ぶ声が響く。

視線をやると、異様に手足の長い何かのぬいぐるみを抱えてはしゃいでいる。

「ねーねーこれ可愛くない?」

…どう贔屓目に見ても不細工なぬいぐるみを捕まえて青子は言った。

「何だ?それ。」

「犬よ犬。ワンコのぬいぐるみ。カワイイでしょ?」

「そーか?」

「えー。ちゃんと見たの?」

青子が下から俺の顔を覗き込む。

お互いの顔が至近距離に近づく。



うわ。



無防備すぎるんだよ。青子は。

今日だって胸のところが大きく開いたワンピースなんて着て。

青子は華奢だから、やらしく見えなくてすっごく可愛いんだけどさ。

スカートだってかなり短いぞ。

薄いピンクのスカートから、長い綺麗な脚が見え隠れするたびに男共が見てたの気付いてんのか?

………気付かねーだろーな。鈍いし。

袖が七分でさぁ、何かこー…青子らしいって言うか………

唇だって、今日はやけに艶々してるしさぁ……

「快斗?どうかしたの?」

ボーっと考えてたら、青子に突っ込まれた。

ピカピカの黒い2つの瞳が心配そうに俺を見る。

「バーカ。なんでもねぇよ。」

悲しげに寄った眉間の皺を人差し指で軽く押さえて青子の顔を遠ざけると、ぬいぐるみをちらっと見て言う。

「まぁ、慣れれば可愛いかもな。」

すると青子はぱぁっと花が咲いたように笑って、「でしょでしょ。」と少し自慢気な表情になる。

ころころと表情の変わる青子が可愛い。



×××



………女の買い物は長い。

さっきはぬいぐるみ、今度はティーカップ。

目に移るもの全てに興味を惹かれる青子。

まぁ、それもいいけど。

視界から青子を外さないように注意しながら辺りを見回す。

甘ったるい香りが店内に満ちていて、始めはなかなか慣れないが慣れれば結構気にならない。

その店の一角、青いライトが、シルバーのアクセサリーを照らしていた。

淡く光を反射するアクセサリーの中、ひときわ目を惹いたのは、ネックレス。

ペンダントトップにはあまり大きくない卵形のシルバー。

その中に限りなく透明に近い澄んだブルーの石がそっと乗っている。

繊細なつくりのそれは、青子に似合うように思う。



「このあいだ誕生日にプレゼントもらったしな。お返しお返し。」

手に取ると独り言のようにぶつぶつ呟いて、レジに持っていく。

店員の含み笑いも持ち前のポーカーフェイスでかわして。

何とかプレゼント包装をしてもらう。

それをポケットに突っ込むと、青子の声がまた店内に響く。

「ねぇねぇ。快斗、これどっちが良いかなぁ?」

林檎のチップスと、紅茶のクッキー。

「どっちか買って一緒に食べようね。」

にっこり笑顔。

「どっちでも良いよ。青子の好きにしな。」

それだけ言って、青子をレジに向かわせる。

あー。赤い顔を見られるところだった。



×××



「快斗、あっちの公園で少し休もう?」

さっき買った紅茶のクッキーを持って、青子がオレに声をかける。

「いーけど。」

きつい陽射しの中、公園に向かってゆっくりと歩く。

途中の自販機で、オレはコーラ、青子はミルクティーを買って公園の中を歩く。

小さい頃遊んだのは、「ちびっこ広場」で、今もすべり台や、ブランコで遊んでいる幼い子がいた。

木登りをした木。

宝探しをした花壇。

懐かしいもの達が、今もあの時と変わらずそこにある。

変わったのはオレ達の目線。

「懐かしいね。青子達、ここで宝探しとかやったんだよね。泥んこになるまで。」

大事な人が、今もあの時と変わらずここにいる。

それがオレにとってどんなに嬉しいことか、青子わかってんのかな?



×××



もっと奥に行くとそこには広場があった。が、きつい陽射しのせいか人影は無くて。

その広場の真ん中に噴水があって、透明な水が綺麗な放物線を描いている。

辺りに響く涼しげな水音。

「うわぁ!見てみて快斗。きれーい。」

ぱたぱたと噴水に駆け寄って、さっそく水の中に手をつける。

「きゃ〜!冷たーい。」

「あんまりはしゃぐと落ちるぞ。」

「失礼ねぇ。青子お子様じゃないんだからね。」

頬を膨らませて怒ってみても、迫力が無くて可愛いだけ。

「へ〜え。噴水見てはしゃぐ青子ちゃんはお子様じゃないんだぁ?」

意地悪な視線を青子に送ると、拗ねたような表情になる。

「いいでしょ。…っきゃあ!」

腕を滑らせて水の中にダイビング。

「ったく、ダレがお子様じゃないって?」

……する前に何とかキャッチ。

「…ゴメン。」

笑って誤魔化そうと、青子が顔に笑みを浮かべる。

ま、誤魔化されてやるか。

「気をつけろよ。」

クシャリと頭を撫でると、青子の顔に笑顔が広がる。

……うわぁ、赤面しそう……



×××



しばらく会話を続けていたが、ポケットに入れたネックレスが気になって会話にならない。

……渡すタイミングがつかめねぇ……

あ、そうだ。

ポケットからいつもいくつか持っているマジックのネタ、トランプを取り出す。

「青子。これ見てろよ。」

「ん?なに?」

一度手を振ると、一枚だったトランプが三枚に。

もう一度振ると五枚に。

そして、手からトランプが何枚も何枚もこぼれ落ちていく。

「うわぁ……すごぉい。」

感嘆の声を上げて無防備にはしゃぐ青子を見ながら、次の動作に移る。

「1,2,3!!」

唱えた瞬間、紙ふぶきを残してトランプは消えた。

残ったオレの手には何にもなくて。

「あれ?トランプは…?」

疑問に応えるようにオレは青子のカバンを指差した。

青子が持っていたカバンのジッパーを開いた瞬間、トランプがカバンから飛び出して舞い上がる。

そして、カバンの中に残った見慣れないものを見つけた青子は不思議そうにその白い箱を取り出した。

「青子こんな箱持ってきたっけ…?」

「こないだ誕生日プレゼントもらったしな。やるよ。」

「…あ、…ありがと。」



×××



「やっ…い、いたぁい。」

ったく、何度失敗すれば気が済むんだか…

「ん……」

あ〜あ、髪に絡んでるじゃねーか。

「も、やぁ……」

おいおい、そのまま引っ張るんじゃねーよ。髪が傷むだろーが。

さっきオレがやったネックレスをつけようと悪戦苦闘する青子を見ていると気が気じゃない。

業を煮やしたオレは青子の手からそれを奪い取ると手早く付けてやる。

「あ、ありがとー。」

涙目の青子がオレを上目遣いに見上げた。

潤んだ瞳に、オレが映る。

濡れたような唇が、言葉を紡ごうと薄く開かれる。

あ、ヤバ…

気が付けば唇を重ねていた。

「んんっ…!」

青子のやわらかさに頭に血が昇る。

抵抗しようとした青子の手首をつかむ。

甘ったるい苺の香りが青子から届いて、さらに温もりを求めて深く重ねた。

首筋にも唇を落とす。

時間が止まったかのような静けさがあたりを包む。

あれ、覚悟していた青子の声が聞こえない…?

ドンッと体を押されて我に返る。

しばらく、音が止んだように思えた。

「……っふぇ。」

涙に濡れた瞳が俺をにらみ据える。

うわっ、泣く。

「あ、あおこ、だからえっと…」

うわー考えがまとまらねぇ…

「快斗のえっちぃぃぃぃぃぃぃ!!」

青子の声が、静かだった公園に響き渡る。

続いてばっさばっさと鳥が慌てて羽ばたいて行く音。

呆然としたオレが噴水の側に残された。



×××



「悪かった。」

「…………」

「オレが悪かったです。青子ちゃーん!」

「…………」

和葉ちゃんのとりなしで何とか一緒に帰ることに成功した俺だが、実はまだ青子の機嫌が直せないでいた。

もうしません。なんて言えねーしなぁ…

青子の家が見えてくる。

うわ。時間がねぇ。

家の前まで付くと、青子は急にオレの方を向く。

そして俯いたままオレのシャツをにぎると風に消えそうな声で言った。

「あ、あのね、青子ね、ビックリしたけど……イヤじゃなかったよ。………じゃね快斗。」

そして頬にふんわりとやわらかい苺のキスを残して青子は家に消えていった。

残されたオレは………幸せだった。




長かった……
ネタは決まってたのになぜか書けなかったもんなぁ…
と、とりあえずこれでOn the lips終了です。
ふぇぇぇぇ。これでやっとリンクのお礼が出来るわvv

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ばっく。