試作詩
作りかけの詩。
やがては詩集にまとめ、画像やサウンドをつける予定。
いつもの言葉が、今日は出てこない
静かな空気の流れを、私は聞いている
もうどこへもいかないで、君はそこにいる
時という広い空間の中で
かすかなこれからを細い指先につかもうとしている
きのう、と、わたしたちのすごした時間がくくられる
むかしの色合いに、わたしたちの時間がいろどられる
あれから君は、広い野原を自由に飛びまわり
静かな空気の流れを、自分の空間にして、その背中も遠くなっていく
2003/05/19;00:53:57 9行 自然
海の色、それから風のにおい、
ゆくえ知らずの波の音、
へいきな顔して別れたときの、
静かな呼吸の深さ。
意味を求めようとしても
ここまで届く何かが、わたしにあるのだろうか
踏みかえるステップの足音、
耳の中で響き続ける
すすんでいく時計の音は今は
もうない
2003/02/14;00:40:25 10行 自然
ついておいでなんて、わたしが言うわけないじゃん
のろのろしたわたしに誰がついてくるの
そんなことわたしに言うやつもいないし
いつものことだから、わたしは何とも思わない
ウソというのは、ついたりつかれたりするもの
さみしいから言ってみたのっていうのもウソ
そんなことあるわけないじゃん
ウソをつくとさみしくなって、だから
みんな黙りこんだふりをして、ウソを考えている
しずかに時間が過ぎる音を聞いている(なんてのろい速度)
2001/05/16;20:56:05 10行 自然
背の高いあの人の、それより高く、松の木が生えていた
意味もなく笑顔を作らせたのは、あの人
考える暇も、なつこうとする空の色も
やっとのことで越えてきた冬の終わりのため息のような一日
作り替えようと思う。
もう始めから何もかもが、さざなみのように別れはじめて
つかえたよな魚の泳ぎ方の、逆らわないようなしかた
偏光された水の色の中で、
明日のことをかき混ぜようとすると
ほんの少しだけ、私の指先は、生きていることを、思わせる。
2001/02/26;01:56:43 10行 自然
風。見えないものが枯れ葉をつけた木を吹き過ぎる
まるでそれは、姿の見えない鳥たちのついばみの音のように
鋭い視線を投げつけては、私たちをとおり過ぎるひとびと
小さな生き物のひとつひとつにまで、その人は注意をはらう
こまかな瞳、小さな生き物の、備えられていない眼のように
まるで、それは冬の、しかし枯れ葉のままの木々のように
こまかな視線。私はどこにいることができるのだろうか。
主のいない部屋の複数形は、崩れることに耐えている
何年も前からつづいている斜め前の視線。
しばりつづけるその視線に補助線をひく私たちの冬の歌
2000/01/13;01:22:14 10行 自然
廊下を磨いている、秋から冬への角を曲がった頃
幾日、あと幾日、どれだけ、私たちの日があるのか
くり返し届く言葉。「そのかみのこいをなつかしむ」…………
あと、幾日、何時間、何分、何秒、
似かよった瞬間をかさねて、それでもまだ愛撫をもとめる猫
音のない瞬間を狙って私たちは陰から陰へと
尻尾のながい猫と、尻尾のない猫と
留守番をおおせつかった私の耳の中に
かげのように飛び込んでくる羽虫の足掻きの音
ほのかな温かみの中に、私より先に死んでいくだろう音
1999/12/10;21:27:14 10行 自然
開かれた視野を、私たちは持ち続けたか?
裸眼の中にしか、その風景は保持し得ない
手から手へと、数知れない触覚が伝えられ
知らないことを知らないと言い続けたとき
抜け落ちたことを知らないとさえ気づかず
幼い思いのいくつもが指の間からこぼれた
気取られぬように注意深くすべては進んだ
手から手へと、数知れない触覚が伝えられ
知らないことを知らないと言い続けたとき
今まで私たちの視野にあったものは消えた
1999/12/08;00:33:30 10行 自然
映らない鏡の前で、
つめの先をまるめていく
落下していく速度は、
剥がれていく皮膚のようだ。
過去から未来へと、私は感じることができない
暦の速度の中で
幼年期からずっと
いまでも、いつも
つめの先が剥がれていくように
目を閉じると、もう何千年も過ごした赤ん坊のようだ
1999/12/02;21:44:57 10行 平均
風の音を聞くこと、そしてそれを待つこと
背の高さにおさまるように、風はいつも吹く
抜け出すものは、そこから、私たちを静かにつつむ
見えない目の中に、私たちは歌を読み込む
たとえそれが私たちの手の中に持ち切れないものでも
昔の昼下がり、波の音のように、
近くにいて。あなたの音を感じていたいから。
弛むことのない潮の干満の、そのさなかにも
ひきさがり、みちあふれ、逆巻き、
さがしてみれば、太古からそこにある砂の上に、あたらしく。
1999/11/26;21:51:45 10行 平均