死者と交わる言葉
昔、と言うときに私は何を思っているのだろうか。
不満が私というかたちを持っていなかった時
昔をあなたはそう定義するのだろうか?
とどめようもなく肉体が変化するときに
大人たちもまた、自らの肉体の変化を止めようがなかったのではないか。
過去の響きがどうしようもなく耳の奥に聞こえ
答えようにもそれらはあまりにも遠く
過去は私の上に重ねられたセロファンのように
不思議な光彩を造りだしていたのかもしれないが
老獪な幼児たちに私たちは不自然な姿勢をとった
2005/05/14;23:15:05 10行 自然
地下鉄に乗っていても、雨の音は聞こえるのだろうか
干からびた油汚れが、私の指にのりうつってきそうだ
つまらないことというのを、もう何年も忘れてしまって
守ろうとする呼び声だけが、耳の奥にこびりついている
もう少し、こうして「何か」をしていくだろう
粘りつく指先の油汚れが、こんな日はいとおしい
名前を忘れてしまった人の、表情(かお)だけが忘れられず
忘れようと思った人が誰だったか、そんなことも思い出せず
降る雨に濡れつづける鳥のように、
返事をかえすタイミングだけをはかっているような、毎日
2005/06/11;00:32:34 10行 自然
涼しい風が吹かなくなって何日、あるいは何年たったのか
静かにしずんでいく思いを泡のように見つめているのは
えらんでしまったこの日を、いとおしく思うふりをして
夏の波頭、その底にしずむ匂いをさがしていたのは
つららのような不定形の逆紡錘形にうかびあがる昼間
静かにしずんでいった温度を、私の皮膚はわすれる
死んでいった何かを、変わりのない一日一日の中に思い出すこともなく
ここにある「ナニカ」を、「ドコカ」にあったものとして時間の系列に並べ
世界。瀬戸物。セイタカアワダチソウ。蝉ノ声。
友達たちは今日も自分の家に帰っていき、そして、私も帰る
2005/06/22;22:34:53 10行 自然