【初めての挑戦!】(後編)
ユウナはしっかりとボールを見つめていた。
いよいよ、ボールがリュックの方へと流れてくる。
「(リュック…!)」
心の中で懸命に応援する。
しかし、結果は―。
「決まったー!」
アナウンスの声が響いてきた。
ユウナもしっかり見ていたからわかる。
惜しかった。あとちょっとだった。
もし、リュックの腕があと少し長かったならば、きっとボールに届いていたことだろう。 「でも、まだまだ試合は始まったばかり…。」
小さな声でそう呟き、そしてまたユウナは祈る。
「(リュック…。ティーダ…。頑張って!!)」
ユウナはいつでも真剣に仲間の勝利を願ってきた。
今回も、いつもと変わらぬ応援を続けている。
「(大丈夫。勝てる。)」
そう信じながら、いつもユウナはこの応援席からみんなを見守っているのだ。

―試合は、いよいよ佳境へと入っていった。
途中、ティーダがジェクトシュートを見事に決め、同点になっていた。
両者は、一歩も譲らない。
「(みんな、いつも以上にゴールへ…。リュックの方へ行かさないようにって、頑張ってる。でも、それじゃあ…。それじゃあ、駄目だよ…。リュックだって、出来るよ?ちゃんとKP出来るんだよ…?)」
今のKPは他でもないリュック。
なのに、試合に出ているビサイド・オーラカのみんなは防御に徹して攻めを疎かにしている。
ユウナの言う「駄目」とは、「このままでは勝てない」という謂なのだ。
ブリッツだって、団体競技の1つ。
チームが一致団結し、互いを信頼し合い、初めて最高のプレイが出来る。
今のビサイド・オーラカにはそれが欠けているのだ。
「(ちゃんと、リュックの力を信じてあげて!)」

リュックの見せた最初のKPとしての仕事は失敗に終わっていたものの、初心者としては上出来であることをティーダは認めていた。
「(でも、他のみんなが防御体勢に入っていると、一人攻撃に入るのはキツイものがあるッス…。)」
ビサイド・オーラカのみんなは選手として着実に成長していたものの、まだまだというところがあった。
だから、最初のリュックの失敗を、"ただの失敗"として済ませてしまっているようなのだ。
ティーダがどうするべきか迷っているそのときだった。
再び、ルカ・ゴワーズがゴール手前までやって来た。
「(しまった!)」
試合途中に集中力を一瞬でも切らせば命取りになる。
今のは、ティーダのミスで相手をゴール前まで誘導させてしまったようなものだった。
「(リュック…。大丈夫ッス。リュックなら、止めてくれる。そしたら、次は俺が決めるッス!)」
ティーダはそうして身構えた。

リュックは相手の攻撃を静かに待っていた。
さっきは取れなかったものの、コツはすでに掴んでいた。
取る自信はある。
そして、とうとうボールが再びリュックの方へと流れてきた。
そのとき、リュックの周りは静まり返っていた。
ボールはしっかり見える。
ゆっくりゆっくり流れてくるボールを取るだけ。
「(イケる!)」
リュックはそう思った。
そして、すぐ次の瞬間、リュックの腕にはしっかりボールが抱え込まれてあった。
「(やっ…た…。やったあ!)」
満面の笑顔をリュックは浮かべた。
会場全体がわあっと盛り上がる。

「(リュック、やったね。)」
ユウナは薄く微笑った。
「(これで、きっともう大丈夫。)」
勝利を確信したようにユウナは応援席を立った。
「ユウナ?」
ルールーが声をかけてきた。
ユウナはそれに、にっこりと微笑って答えた。
「一足先に、控え室でみんなを待ってるね。」
「…そう。」
ルールーも、微笑んだ。

―試合は、終わった。
2−1の勝利だった。
「リュック!凄かったよ!ブリッツの才能あるかも。」
控え室で、誰より早くユウナがリュックに激励の言葉を贈った。
「ありがとう、ユウナ。でも、もうやらないかな?」
「「何でっ!?」」
次にそう言ったのは、ティーダとワッカだった。
二人共同じくらいリュックをブリッツの選手として評価していたので、その声は見事にハモった。
「うん。やってて思ったんだけど、やっぱりわたしには機械いじりとかが1番あってるかな〜って。」
「そんなこと!十分選手としてやっていけるッス!」
「とにかくいいのっ!…でも、結構楽しかったよ?」
流れるボールを掴む感覚は、確かに最高だった。
それを思い出すと、顔がついつい綻んでしまう。
しかし、それでもやっぱり、ティーダやワッカ程にブリッツに情熱が持てるとは思えなかった。
きっと、『道』が違うのだろう。

リュックの初めての挑戦は、こうして幕を閉じた。
しかし、その後長い間リュックにティーダとワッカが付き回ったとかそうでないとか…。






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