マクロビオティック健康相談室食神

肥満への防波堤

肥満の話にしばしおつき合いください。今世界的に肥満が増加しています。WHOの報告では、現時点において全世界で13パーセントが肥満であると推定されています。いわれてみれば、太った人を街で見かけることがむかしよりも増えている印象があります。アメリカなどではそこらじゅうに巨漢の太った人がいて、肥満大国とはまさにこのことかと驚きます。

肥満の判定には、BMI指数が使われます。BMI指数は、体重÷(身長の2乗)で算出される数字で、BMIが30以上が肥満、25以上30未満が体重超過、20以上25未満が標準体重と国際的に決められています。下の図はWHOのBMIデータベース(GLobal Database on Body Mass Index)より取りだした数字です。これを見ると、肥満率が3割を超える国は世界の上位10位内に入り、5割を超えると5位内に入ります。

肥満率(%)
ナウル 78.5
アメリカ領サモア 74.5
トケラウ 63.4
トンガ 56
キリバス 50.6
仏領ポリネシア 40.9
サウジアラビア 35.6
パナマ 34.7
アメリカ合衆国 33.9
アラブ首長国連邦 33.7
エジプト 30.3
バーレーン 28.9
クウェート 28.8
ニュージーランド 26.5
マケドニア 25.1
セーシェル 25.1
フィジー 23.9
メキシコ 23.5
カナダ 23.1
イスラエル 22.9

肥満と砂糖税

BMIが30というと、身長170センチで体重87キロですから、かなりおデブさんです。肥満はいうまでもなく不健康です。高血圧、糖尿病、心臓病と病気の危険が高くなりますし、そのために医療費がかむことも問題です。

そこで肥満に悩む国では、肥満対策として砂糖税を導入する動きがでてきました。砂糖税とは、清涼飲料水に課金される税金で、これにより清涼飲料水の消費量を減らすことを目的にしています。実は清涼飲料水には、平均で100ミリりットルにつき5~8グラムの砂糖が含まれています。しかし一見そうとはわからないので、気にせずに飲んでいると知らず知らずに砂糖を多量に摂取してしまいます。これが肥満を助長しているとして問題視されているのです。

これまでに砂糖税を導入した国は、ハンガリー、メキシコ、フランス、デンマークです。このなかで成功と見なされているのはハンガリーとメキシコ。ハンガリーの場合、砂糖税導入後商品に含まれる砂糖の量が40パーセント削減されました。メキシコは、砂糖税導入前には3割を超えていた肥満率が、税導入後の現在2割台に下がっています。このような成功例を受けて、WHOは肥満削減に砂糖税を導入することを各国に呼びかけています。イギリスも、昨年砂糖税導入を決めました。長年砂糖税導を求めて運動をしてきたセレブリティシェフのジェイミー・オリバー氏は、「世界中に波及する意義深い一歩だ」と喜びを露にしました。

メキシコの砂糖税

砂糖税の成功例として注目されているメキシコについて見てみましょう。数年前に肥満率がアメリカ合衆国を抜いて「アメリカよりも太った国になった」と話題になったメキシコは、2014年清涼飲料水に対する10パーセントの砂糖税を導入しました。

メキシコ人の清涼飲料水摂取量は世界一ともいわれ、メキシコ人は水を飲むように清涼飲料水とりわけコカコーラを飲みます。その量は一人当たり一日平均500ミリリットル。ちなみにコカコーラ1缶には、角砂糖8個分の砂糖が含まれています。特に貧困層の人たちは、飲料水が整備されていないこともあり、安価なコカコーラを飲みます。メキシコ国内にコカコーラはとても普及しており、どこででも手に入れることができます。

砂糖税導入後一年で、メキシコ国内の清涼飲料水の売り上げは12パーセント減り、清涼飲料水の摂取糧に歯止めをかけることに一定の成果を収めました。肥満率も減少しています。メキシコ政府は、砂糖税を学校での飲料水の供給に使う予定です。

貧困と肥満

一般に肥満は飽食が原因だと思われがちですが、肥満は裕福な国に多いかというと、まったく違います。各国の肥満率と所得水準はまったく関係がありません。世界の肥満率上位国は、ナウル、サモア、トンガ、ポリネシアなど南太平洋諸島の国々が入ります。こうした国々では、なんと7割以上の人々がBMI指数が25以上の体重超過もしくは肥満です。まさに世界でいちばん太った国です。

南太平洋の島といえば南国の楽園、お金はないけれどあくせく働かなくてもヤシの実やバナナを採って食べ、皆が仲よく平和に暮らしている…そんな像が思い浮かびます。しかるになぜ人々が、そのようにひどく太ってしまうのか?それは、彼らが伝統的な食生活を捨て去ってしまったからだといいます。島の人々は、主食のヤム芋に野菜そして魚を食べてきましたが、欧米の生活様式とともに精白小麦粉や砂糖がもたらされ、伝統的な食生活が崩壊したのだと。現在彼らの食料はほとんどが輸入食品であり、所得の低い人は安価なジャンクフードや清涼飲料水漬けの食生活を余儀なくされています。

メキシコでも、貧困層の人が肥満になる傾向があります。メキシコは、1994年のNAFTA(北米自由貿易協定)加盟以降、米国から安いトウモロコシが大量に輸入され、国産のクリオーリョ種トウモロコシ農業が苦境に立たされています。クリオーリョ種トウモロコシは、メキシコ人の主食であるトルティーヤの原料です。このクリオーリョ種トウモロコシが輸入トウモロコシに取って代わられ、むかしながらの食生活が切り崩されています。都市化にともなうこうした変化はどの国も経験することではあります。しかしながら、人が生きていくうえでなくてはならない水や命の糧である穀物そして新鮮な野菜が不足したり値段が高い一方で、多国籍企業のハンバーガーやフライドチキン、清涼飲料水が安い値段で売られるのは、異常といわねばなりません。

食文化の力

これまで見てきたように、南太平洋諸島やメキシコの例から、肥満を大量発生させる共通の社会的条件が見てとれます。それはおよそ次のようなものでしょう。1.食糧の大部分を輸入すること、つまり自給的農業ができないこと、2.ジャンクフードが安価で手に入りやすいこと、3.むかしながらの食生活が廃れ、欧米の食生活が普及すること、4.貧富の格差がひらくことです。自国の農業が不利な立場に追いやられ、外国資本の飲食品が普及し、人々がむかし風の食生活に背を向けたところに、肥満の落とし穴がぱっくりと口をあけているといった感じでしょうか。

日本は、国際比較では肥満率は低い部類であり、肥満はそれほど深刻ではありません。肥満率の高い国々と同様に食の欧米化が進み、ジャンクフードが普及し、貧富の差が拡大しているにもかかわらず、日本人がそれほど肥満にならないのは、和食の伝統が曲がりなりにも生きているからだと思われます。逆にいえば、自国の農業ができなくなり、ということは食糧の大半を輸入するようになり、日本人が伝統的な和食を捨て去ったときに肥満が激増すると予測できます。

伝統的な食文化の底力が、肥満への防波堤になっています。これはすなはち、自国で食糧を作り、身土不二の食事をすることにほかなりません。マクロビオティックの教えである身土不二は、地産地消という現代語版で浸透しています。地元の新鮮な食材が容易に手に入ることの価値が見直され、支持されているのです。それはなんでもないことのようですが、そのような価値観が、静かに日本人のなかに広がっているようです。