非常時の食事

非常時とは戦時や災害時のこと。長らく平和ボケしているといわれてきた日本国ですが、近年は災害が多発し安穏としていられなくなっています。派手な紛争や戦争から免れているとはいえ、目に見えない経済戦争や情報戦争のだたなかにいることは明らかです。文明の転換期といわれる今は、崩壊現象に遭遇することもありえます。いってみれば、今は非常時のようであります。

そんななか、私たちは食べ物が街にあふれある光景に慣れてしまい、食べ物に不自由する生活など想像できなくなっています。食べ物に不自由した原体験をもつ人も少数派になりました。しかしながら、日本列島に災害が頻発する今、非常時の食事を考えておくのは決して突飛な発想ではありません。むしろ非常時にこそ、食事は切実な問題です。食べ物が手に入るのか?手に入ったとして煮炊きはできるのか?不自由な住環境のなか何を食べれば心身を健康に保てるのか?といったことが命に直結するからです。

非常時の備えには、以下のことをお勧めします。食べ物の入手が困難になることを想定して、食料の備蓄をしておきます。基本は主食の米です。米はあるていどの量を日頃から家庭に備蓄しておきましょう。家族数にもよりますが、少なくとも数十キロは常備しておきたいものです。米以外には味噌と梅干を常備しておきます。米と味噌そして梅干があれば、あとはこれに少量の具材を調達してご飯に味噌汁という基本の和食ができあがります。それ以外には、切干大根、干しいたけ、きくらげ、凍豆腐、麩などの乾物を備えておきます。乾物は、非常時には心強い味方です。これらの乾物をうまく使えば、生鮮食品がまったくなくてもけっこうなごちそうを作ることができます。豆も乾物です。たいていの豆は一晩浸水しなくてはいけませんが、レンズ豆やムング豆など浸水しなくてもよい豆は料理しやすく、煮炊きの火が十分にないときに重宝します。

もうお気づきかもしれませんが、非常時の食事とはつまるところマクロビオティック食の基本のようなものです。したがって普段からマクロビオティック食に親しんでいれば、特に非常時を意識しなくとも自ずと非常時に強い備えができるということです。マクロビオティック食を別の言葉で表すと、スローフードともいえます。つまり、食材を調達して料理をする過程を大切にし、これを疎かにしません。食材を調達して料理をすることは、ちょっと前まではどの家庭でも行われていた当たり前の行為でした。しかしながら現在では食事に利便性が追求され、インスタント食品や半調理品を使ってお手軽に食事ができるようになっています。お手軽な食事が絶対にいけないとはいいませんが、これが常態化すると、素の食材から料理を作る能力が低下します。この能力は、実は生きる力でもあります。したがってお手軽に流されて半調理が当たり前になりますと、人の生きる力も弱体化していきます。

人は、極限状態に置かれて初めて真に大切なこと、大切なものが見えてくるといいます。それはそれで貴い気づきではあるでしょう。しかし、極限状態にならずとも真に大切なこと、大切なものを知っておくことも必要です。それが知恵というものです。知恵は、案外身近なむかしながらの作法や教えのなかに息づいていることがあります。マクロビオティックの教えもまた、私たちが先人から受け継いだ貴い知恵のひとつなのだろうと思います。

2013年5月

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