性差と食べ物

「食べ物に性差がある」というと差別だと叱られそうですが、そのような考えはかつては一般的でした。例えば、男が甘いものを食べるのは男らしくないとか、女が酒を飲むのはハシタナイ、というような感覚です。

性差を強調しないのが最近の政治的命題ですから、食べ物についても男女平等が正しいように錯覚させられます。しかし、こと食べ物については残念ながら男女平等ではありません。食べ物には性差があります。男性と女性とでは、適した食べ物が少し違います。男女がまったく同じ食べ物を同じ量食べるのが平等でよい、とはならないのです。さきほど冒頭で紹介した酒と甘いものは、男らしい食べ物・女らしい食べ物の一例ですが、これを俗信と決めつけるのは早計です。食べ物に性差があるという考えには、マクロビオティック的観点からは、それなりの理由があります。

性差を考えるときに役に立つのは、陰陽の概念です。陰陽とは、相対しながらも補い合う一対の推進力であり、森羅万象の源です。男女の区別すなはち性別も、陰陽の表れ方の差にほかなりません。男が陽を、女が陰を表します。

陰を「地の気」、陽を「天の気」としてイメージすると理解しやすいかもしれません。天の気は、宇宙から地球の中心部に向かって集中する求心力、地の気は、地球内部から地表面を貫き再び宇宙空間に拡散する遠心力です。男性はより天の気の影響を、女性はより地の気の影響を受けて造られ、また動かされています。それゆえ、男性は短い頭髪、逆三角形の体型、下降する体の外にある生殖器をもち、女性は長い頭髪、骨盤が横に広がった体型、上昇し体の内部に収まった生殖器をもちます。

こうした違いから、さらに男性は動的、活動的、肉体的な性質を、女性は静的、受容的、精神的な性質を特徴とします。むろん、これは一般論です。陰陽の概念を、男性的なるものと女性的なるものとしてイメージしているにすぎません。実在のすべての男性が動的で活動的でなくてはならない、すべての女性が静的で精神的でなければならない、ということではありません。なぜなら、どんな人やものでも100%陽性あるいは100%陰性ということはないからです。男性のなかにも陰性なるものはあり、女性のなかにも陽性なるものはあります。これを別の言い方で「女性性」とか「男性性」などと呼ぶこともあります。

このように男女がそれぞれ陽と陰の表現形だとするならば、当然のことながらそれぞれに適した食べ物にも差が生じます。男性は陽性ですから、元々陽性の食べ物を好むようにできており、陰性の食べ物には女性ほど耐えられません。女性は陰性ですから、陰性の食べ物を好むようにできており、陽性の食べ物には男性ほど耐えられません。どういうことかというと、男性は体が陽性になっているのが常態なので、陰性の食べ物を食べすぎると体調を崩しやすくなります。一方、女性は体が陰性になっているのが常態なので、陽性の食べ物を食べすぎると体調を崩しやすくなります。

体調を崩さないまでも、食べ物によって男性が女性化したり、女性が男性化することはあります。例えば、肉を多食しこってりとした濃い料理をよく食べている女性は、どことなく顔つきや態度が荒っぽくないでしょうか? そうした女性は、体毛も濃いかもしれません。また、砂糖甘いお菓子、コーヒー、紅茶などを常食する男性は、どことなく静かで物腰柔らかな雰囲気ではないでしょうか? そのような男性は、自分の外見を神経質に気にする性質かもしれません。

甘いお菓子には、砂糖が多く使われています。砂糖は極端に陰性ですから、砂糖を使った甘いお菓子は陰性の強い食べ物です。むかしの人が砂糖の極陰性を意識していたとは思えませんが、甘いものは女の食べ物であって男の食べ物ではないと考えたのは一理あります。だからといって、女性は砂糖を食べても差し支えない、といっているのではありません。ただ女性より男性の方が、その害に作用されやすいのではないかと思います。

お酒も、陰性です。しかしお酒を飲むときには、たいてい魚を食べます。現代なら肉ということもあるでしょう。要するに、酒のさかなに動物性食品を食べることになります。動物性食品は陽性の強い食べ物です。それゆえ、酒を飲む習慣は男のものとされたのです。

動物性食品は"ごちそう"であることがほとんどです。家のなかで男たちのためにごちそうを作り酒をふるまうのは女の役割とされ、女は台所に下がって粗末な食事をするというのは、いかにも男尊女卑の風習に思えます。確かに男のためにあるような宴会で女が下働きに甘んじている図柄はとても正視に堪えない、ということはあるでしょう。しかし食べ物だけを考えると、こうした風習もそれなりに合理的ではあったのです。

現代は食べ物にまつわる性差意識がなくなり、男が甘いものを食べることも女が酒を飲むことも普通になりました。その結果かどうか分かりませんが、特に若い世代で男性が女性化し、女性が男性化しているように見受けられます。気になる兆候は若者の声の高さです。私の個人的な観察にすぎませんが、甲高い声の若い男性がいる一方で、体格の大きな若い女性が野太い低い声をしていたりします。ひとむかし前私が若い頃には、このようなことはまれでした。声を聞けば、姿を見ずとも男女の区別は明白でした。

私はお酒がいける口ですし、といってもごくたまにいただくくらいですが、もしも性別を理由に禁止されたらちょっと寂しい思いをするでしょう。男の人が甘いものを食べるのもよいと思います。しかし、スウィーツ三昧の男性と聞くと、こんな暴言が咽元まででかかり、慌てます。「男のくせにスウィーツ、スウィーツって。男なら酒を飲め、酒を!」

2012年7月

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