お米の話

画一化された銘柄

おいしい米といえばコシヒカリ、ということになっています。大人気の銘柄ゆえに、今や「コシヒカリ」は日本全国北から南まで栽培されています。コシヒカリの作付面積は、全耕作田の約40%。コシヒカリを親にもつ「ひとめぼれ」や「アキタコマチ」が次に続き、コシヒカリ系の銘柄を全部合わせると9割近くにもなります。日本全土がコシヒカリに席巻されてしまったかのようです。

稲こうした圧倒的なコシヒカリ系米の作付は、栽培期間の画一化をもたらしています。かつては南北に長い日本列島では田植えから稲刈りまでその時期は地域によって相当ばらつきがありましたが、今では田植えは全国的にだいたい4~5月、稲刈りは8~9月に集中しているようです。銘柄も一律、栽培期間も同時期、こんなに画一的でよいのでしょうか?

そもそも銘柄というものは、多種多様であればこそ、そのかけがえのない価値が光るというもの。全国どこへ行ってもコシヒカリばかり食べさせられるのは、全国どこでも同じハンバーガーを食べさせられるのに似て、面白くありません。地酒のようにその土地ならではの銘柄を楽しめる食文化の豊かさが、こと米にかぎっては失われています。

栽培が全国ほぼ同時期であるというのも、食料安全保障上有利ではありません。例えば、もしも大きな台風が日本列島を縦断して収穫間近の稲に被害を与えるとしたら、その被害は一斉に甚大なものになりかねません。一方、稲の品種が地域で異なれば収穫時期もずれますから、被害が少なくてすみます。

良食味米

コシヒカリも、それとは別系統のササニシキもともに「良食味米」を代表する品種です。「良食味米」とは読んで字のごとく、食べておいしい味の米という意味。良食味米を成分分析すると、一定の特徴があります。その特徴とは、蛋白質が少なく、マグネシウムが多く、カリウムが少ないというものです。この性質に加えて、コシヒカリには糠層が硬いという特性があり、この硬い糠層が中身を変質劣化するのを防ぐ役目をしています。

成分分析はさておき、そもそもコシヒカリはそんなにおいしいお米なのでしょうか?コシヒカリのおいしさは、白米で炊いたときの粘りと甘味にあるといいます。実は、私は白米コシヒカリのおいしさを実感できません。白米を食べないからわからない、ということもあります。また、そもそもこれだけコシヒカリが普及しそれ以外の米の品種が乏しいと、ほかの品種を食べ比べることができにくくもあります。そのうえ「コシヒカリがおいしい」という情報が先行して、先入観でコシヒカリを「おいしい」と思って食べている人も多いのではないでしょうか。

米の品種改良

現在の良食味米は、昭和20年代から30年代にかけて人工交配技術を使って開発されました。コシヒカリは既存品種に耐病性をもたせるため、ササニシキは多収量を目的としたといわます。コシヒカリ、ササニシキに限らず総じて戦後開発された品種は、背が低く、葉が直立する性質をもっています。これは同時に、雑草を繁茂させやすい性質でもあります。裏を返せば、除草剤の使い勝手がよいということです。化学肥料、農薬、品種、これらが一体となって、現代の稲作は行われています。

近代以降の日本の稲作は、多収量を追求する歴史でした。多収量を目指せば、当然投入される肥料は多くなります。そこで求められたのが、多肥料に耐える品種です。多肥料に耐えるために茎葉や根が伸張しすぎず、なおかつ実入りのよい性質がよしとされたのです。

新品種の開発方法は、むかしと今とではまったく違います。むかしは、農民自らが個体選抜という方法で新品種を作りだしていました。現在では、育種は農民の手を離れ、業者や専門研究者らが最新の科学技術を用いて作ります。その技術はバイオテクノロジーと呼ばれます。バイオテクノロジーのなかには、放射線照射によって突然変異を誘発したり、化学薬品に細胞をさらして融合させる技術などが含まれます。さらに遺伝子組み換え技術もあります。遺伝子組み換え技術を使えば、自然界では決して交雑しない種同士を交配することができます。そのようにして、ウイルス耐性・除草剤耐性をもった遺伝子組み換え稲が開発され、既にこの世に存在しています。

かつてこの国には、四千種以上の在来の米の品種がありました。それが現在では、官営の管轄下で約三百種にまで縮小され、実際に栽培・流通している品種はかなり限られています。次々と駆逐され消滅する在来種。口当たりの味のよさだけを追求して開発される新品種。私たちが追求すべき米の性質は、どうあるべきなのでしょうか?

玄米食に適した品種は?

玄米食はいうまでもなく、糠の部分もいっしょに食べます。時々、玄米は硬くてぱさつくという声を耳にします。これは炊き方で改善できますが、品種そのものも影響しているかもしれません。コシヒカリは、糠層が硬い性質です。糠層を軟らかく調理することが、おいしい炊き方のコツです。

糠を食べるということは、ここに残留するといわれる農薬があってはいけません。無農薬・無化学肥料栽培の米がなんとしても求められます。元々化学肥料と農薬で栽培されることを前提に開発されたコシヒカリは、多肥からくる地中の窒素の影響を受けにくくするために根張りが抑制されています。根が地中深く張らないと、倒れやすくもなるでしょう。甘味を追求する現代農業の品種改良は、概して作物を陰性化させます。コシヒカリが陰性だと断言できませんが、生命力があまり強くない品種かもしれません。

多収量を追求しながら一方で減反政策によって米を半強制的に作らせない現代稲作は、相矛盾することをしています。田をいったん潰してしまえば、元通りに復元させるのはほとんど不可能だといわれます。荒れた田が増えることは、国土の荒廃を招きかねません。田を潰さないで稲作を持続させるには、多収量にこだわらず薄く広く稲作をすることを考えもよいのではないでしょうか。

以上のことから、玄米食に求めたい米の品種は

となります。

2002年8月

[参考図書]:菅洋著『稲-品種改良の系譜』(法政大学出版)__ 伊原豊著『痛快イネつくり』(農文協)

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