ナイトシェードについて

「ナイトシェード」とは、何やら怪しげな響きです。「夜の影」という意味でしょうか?そんな奇妙な名前をつけられた一群が、なす、トマト、ピーマン、じゃがいも、唐辛子、パプリカといったナス科の野菜です。一見して、陰性の夏野菜だと分かります。これらナス科の野菜を温帯に住む人は食べないようにしましょう、というのが標準マクロビオティック食での決まりごとです。どうしてでしょうか?

ナス科の野菜の原産地は熱帯です。なすはインド、トマトはペルー、じゃがいもはアンデス高原、ピーマンは中南米の熱帯地方と、アンデス高原だけが高冷地であるほかはどこも熱帯性気候の土地です。これらの野菜がヨーロッパにもたらされ、それから全世界に広がりました。しかし元々食用されていた植物ではなく、長らく薬用もしくは観賞用として栽培されていました。その理由は、毒を含んでいると恐れられたからです。

実際ナス科の植物には、毒を含むものが多くあります。例えばベラドンナという貴婦人を意味する名前の植物には、アトロピンという猛毒成分があります。このアトロピンには、瞳孔を拡大する作用があるといいます。それからトマトに似た、というよりトマトの方がその植物に似ていたために忌避されたいきさつをもつのが、マンドラゴラという植物。この不気味な感じの植物も有毒で、麻酔性があります。

現在食用となったナス科野菜にも、毒性があります。じゃがいもを料理するときに、芽の部分を切り取りますね。それは芽の部分にソラニンという毒が含まれているからです。ソラニンの中毒症状は、嘔吐、下痢、腹痛、めまいなどです。トマトに含まれるトマチンも、ソラニンに似た毒です。タバコに含まれるニコチンは、神経毒性があります。

そうはいっても品種改良が進んだ現在、たとえ微量の毒を含んでいたとしてもたいしたことにはならないだろう、という意見もあるでしょう。確かに、ナス科野菜を食べたからといって、直ちに毒にあたってどうこうなるようなことはありません。しかし直ちに影響はなくとも長い年月かかって影響を及ぼすかもしれない害があるのなら、そのことを頭に入れておいても損はないでしょう。

実は、ナス科の野菜の害を訴えている博士がいます。長年関節炎患者を診てきたアメリカ人医師ノーマン・チルダース博士です。チルダース博士は、関節炎患者がナス科野菜を除いた食事にすると症状が改善するという研究報告を発表しています。

博士によれば、ナス科野菜の問題点は、コリンエステラーゼを阻害する物質を含むことと、活性ビタミンD3を生成することです。体内に蓄積されたナス科野菜に含まれるコリンエステラーゼ阻害物質、グリコアルカロイドとステロイドが、炎症や痛みを引き起こすのではないかと博士は主張しています。また活性ビタミンD3が、カルシウムの吸収に何らかの影響を及ぼしているとも指摘しています。

チルダース博士の主張通りのことがあるとしても、それは長い年月かかって関節を冒すのでしょうから、ナス科野菜を食べるごとにいちいちその“害”を感知することは至難の業です。体感的に分かるのはせいぜい、「体が冷えるなー」ていどの感覚だろうと思います。

ナス科野菜は元々熱帯性ですから、食べれば体を冷やします。そしてその冷え方は、かなり強力です。例えば、トマトを生で食べたときのあの急激に体がゾクゾク冷える感じや、じゃがいもを食べた後のなんとなく背中の辺りがスースー寒くなる感じに思い当たる方もいらっしゃるのではないでしょうか?

「秋なすは嫁に食わすな」ということわざがあります。これは一説には、秋なすはおいしいから嫁に食べさせるな、という嫁いじめの意にとられることがありますが、そうではなく、陰性作用の強い秋なすを避けるよう戒めたことわざだと解釈できます。ただでさえ体を冷やすのに、暑い夏はともかく涼しい秋になってそんなものを嫁が食べれば、よりいっそう体を冷やして妊娠しづらい体にでもなられたら困る、というのが「秋なすは嫁に食わすな」の真意だと私は解釈します。

自分は嫁でもないし、なすはおいしいから食べるという方は、ぜひこの強力な陰性作用を打ち消すよう料理方法を工夫されることをお勧めします。なすは、つい油で炒めがちですが、油より塩や味噌・醤油を使う方が陽性の調理方法です。なすを使うときは、まず水にさらしてアクを抜く、あるいは塩漬けして水分とアクを抜きます。それからよく煮る、あるいは味噌や醤油で和えても面白いかもしれません。

私自身のことをいいますと、ピーマンが食べられません。ピーマンを食べると胃の働きが停まるような感覚がします。実際、鈍い胃痛がすることもあります。生まれて初めてトマトを食べたときは、はっきりと嫌いでした。私の母は子どもの時分にじゃがいもが嫌いで、食べるとお腹を壊していたそうです。体質的に合わないのでしょう。でも、いったい何を感知してそうなのか、体に尋ねてみたい気がします。

ナス科の野菜がなくなったら食べる野菜がない、という人も多くいるでしょう。それだけナス科野菜は世にあふれていますし、人気もあります。遠い外国から輸入されているわけでもなく、地元産が容易に手に入ります。ですからそんなに杓子定規に考えず、いただくときはいただきましょう。でも、食べて、そしてその後どんなことが起きたか、自分自身に問うてみてください。例えば、夜の影が忍び寄るような奇妙な感じを覚えたかどうか、を。

2010年9月

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