“油”に気をつけろ!

2015年6月、合衆国がトランス脂肪酸を禁止するというニュースが流れました。これは、アメリカ食品医薬品局が今後3年以内にトランス脂肪酸の加工食品への使用を禁ずる決定をしたものです。これによりアメリカでは、流通する食品にトランス脂肪酸が概ね除かれる状態がもうじき実現します。

トランス脂肪酸のニュースは、既に2003年ニューヨーク市が市内のレストラン料理にトランス脂肪酸の使用を禁止することが報じられましたので、この言葉が初耳でない人もいらっしゃるかもしれません。とはいえ、トランス脂肪酸とは聞きなれない言葉です。そこで、トランス脂肪酸とは何なのか、なぜトランス脂肪酸が禁止されるのか、またどうすればそれを避けることができるのかを考えてみます。

トランス脂肪酸って何?

トランス脂肪酸は、PHO製造工程で生じる物質です。PHOとは、部分的水素添加油のこと。部分的水素添加油を説明するには、脂肪酸の分子の話になってちと難しくなります。脂肪酸は、炭素原子と水素原子がつながった鎖の一方の先端に、酸素分子がくっついた分子構造をしています。炭素結合が水素原子によってすべて満たされているものを飽和脂肪酸、すべては満たされていないものを不飽和脂肪酸といいます。不飽和脂肪酸の満たされない結合部分に部分的に水素を添加すると、水素原子がぐるんとひっくり返って鎖がねじれた状態になります。これがトランス脂肪酸です。「トランス」とはまたがることを意味します。

この状態となった不飽和脂肪酸は、常温で固体となり熱によって溶けます。この性質が、PHOの普及を促進しました。トランス脂肪酸を多く含む食品の代表格は、マーガリンでしょう。マーガリンは、水素添加技術によって製造可能となった「硬化油」で、常温で固体ですがバターやラードといった動物性脂肪ほど固まらず、スプレッドとして便利です。不飽和脂肪酸であることから当初は健康によいとされ、飽和脂肪酸の動物性油脂の代用品として普及しました。ショートニングも同様に扱いが便利で、そのうえ食品の食感を軽くし日もちをよくするので、今ではパンやお菓子に必須の食品となっています。PHOは揚油にもよく使われています。PHOで揚げると食品にさくさく感がでるうえに、油を繰り返し使える利点があります。ゆえにPHOは、ファーストフードに必須の油となっています。

トランス脂肪酸が制限される理由

トランス脂肪酸の摂取は、心臓病の危険を高めることが知られています。トランス脂肪酸はLDL(低比重リポ蛋白)いわゆる悪玉コレステロールを増やし、HDL(高比重リポ蛋白)を減らす働きをします。したがって血液中にLDLが増えすぎると、血管壁にくっついて血流を狭めます。これが血管疾病や心臓病を引き起こす仕組みです。

トランス脂肪酸が多く含まれている食品に、ファーストフードがあります。ファーストフードを多く食べる貧困層の人たちは2型糖尿病になる割合が高く、トランス脂肪酸と肥満・糖尿病との関連が疑われます。動物実験で、トランス脂肪酸と飽和脂肪酸の摂取はアルツハイマー病を促す結果がでています。人を対象にした調査でも、トランス脂肪酸の摂取が記憶力の低下を招く結果がでました。

2013年、アメリカ食品医薬品局は「トランス脂肪酸はもはや安全な食品とはいえない」と宣言、規制に踏み切ったことは先に述べたとおりです。

各国の規制の動き

そのほかの国々の動きを見てみましょう。

イギリスでは、2006年までにトランス脂肪酸の食品表示を求める声があがっていました。2007年に、国内小売業組合は年内にトランス脂肪酸の食品への使用をやめると発表。同年末に政府はその発表が空約束でないことを確認しました。その後も食品表示義務などさらなる規制の声があがる一方、食品業界は、イギリスでのトランス脂肪酸の消費量はWHOの上限値を下回っていることを理由に規制に反対しています。

カナダでは、2005年にトランス脂肪酸の含有量を食品表示に加えることが義務づけられました。が、0.2グラム以下の含有量は表示しなくてよいとされました。2006年、政府はトランス脂肪酸の含有上限値を、すべての食品の5パーセント以下、マーガリンと類似製品では2パーセント以下にすることを食品業界に勧告。2007年、2年以内にその勧告内容を達成するように要請しました。

オーストラリアでは、2007年政府は食品業界に対し、食品表示義務も視野に入れつつトランス脂肪酸を調理に使わないように要請しました。トランス脂肪酸の食品表示義務を回避したい食品業界は、自発的にPHOを代替品に切り替えました。その結果、同国のトランス脂肪酸摂取量は、WHOの基準値である総摂取カロリーの1パーセント未満にとどまり、ほかの先進国よりも低くなっています。

デンマークでは、2003年にPHOを含む食品の販売が禁止されました。トランス脂肪酸の含有量を原材料油脂分の2パーセント以下にするという厳しい制限を課した同国では、1日のトランス脂肪酸の摂取量が1グラムよりはるかに少なくなりました。こうした努力により、デンマークでは20年間で虚血性心臓病による死亡が半減しました。

トランス脂肪酸を避けるには?

日本国では、トランス脂肪酸の食品表示義務がないばかりか、業界の自主的な規制もありません。消費者は含有量はおろか、その言葉さえ知らない人が大半かもしれません。まさに野放し状態となってます。そんななかトランス脂肪酸を摂取しないためにはどうすればよのでしょうか?

トランス脂肪酸はPHOに含まれていますので、PHOを摂らないことが肝要です。PHOが含まれる食品は多岐にわたります。よく知られたものでは、マーガリン、ショートニング、ファーストフード、コーヒークリームです。よって、ファーストフード店には行かず、マーガリンやショートニングが使われている市販のパンやお菓子の類を食べないことです。PHOが使われている可能性が高い外食やできあい惣菜の揚げ物も、避けた方が無難です。トランス脂肪酸の存在が比較的見つけやすい上記の食品のほかに、トランス脂肪酸の存在が見えにくい食品もあります。例えば、原材料名に「植物性油」と表示されている食品は、その油がPHOであるかもしれません。とりわけその食品が不自然にも劣化が遅くて長もちするならば、疑わしいといえます。

不自然な食べ物ばかり食べていると、食べ物がどれくらいもつのかの感覚が鈍くなりがちです。ためしに、自家製パンでもお菓子でも、自分で作ってみてください。もって数日。二日目以降から生地が固くなり、湿度が高いときなどは数日でかびが生えます。空中に置いたまま何日たっても硬くならず腐りもしないなんてことは、よく考えたらおかしいのです。あなたが食べているその食べ物、ちゃんと劣化しますか?

疑わしいものも含めると、トランス脂肪酸を口にしないためには、売られている食品の大半が食べられなくなるというまことに困った結論になってしまいました。

もうひとつの道

お店で売られている食品が怪しいとなれば、安全な食べ物を得るには自分で米や野菜を作って自給自足生活をするしかない?・・・というのは冗談ではなく、まじめな話です。それができるのならば、自給自足生活はいまやいちばん安全かつ贅沢な生き方です。それが無理だとしたら次善策として、できるだけ食料生産現場を自分の生活圏内に置くこと、そしてなるべく自分で料理をすることをお勧めします。

さまざまな加工食品や半調理品に慣れた現代人には、素の食材から料理をすることは難しく感じられるかもしれません。しかし、そもそも料理とはそういうものであり、それがむかし変わらぬわたしたちの食文化の本質です。半調理品や加工食品に依存せず自然な食材から食事を作ることこそが、トランス脂肪酸からも、またそのほかの有害物質の影響からも、わたしたちを守ってくれる最善の策ではないでしょうか。

最後に、マクロビオティック食で用いられる油について触れておきます。マクロビオティック食事法では、純正な食品を選ぶようによくいわれます。「純正な食品」とは、伝統的製法で作られた自然なものといった意味です。これを油に当てはめると、原材料が未精製の植物であり、かつ製法が冷温圧搾方式によるもの、ということになります。細かいことをいえば、「冷温」は熱をまったく加えないことですが、実際には中程度の熱が加えられて抽出されているものもあり、表示からはその区別はわかりません。

2015年9月

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