春と肝

春がやって来ました。私たちが春の到来を感知するのは、気温の上昇、鳥の鳴き声、草木の芽吹き、ふきのとう、早くなる夜明け、遅くなる日の入り、春一番などからでしょうか?あるいは、なんとなくソワソワウキウキする気分だとか、恋の予感に胸が高鳴るなんてこともあるかもしれません。視覚・聴覚のみならず触覚・嗅覚・味覚までも動員して、私たちは春を感じていることでしょう。

陰陽五行説に、五行表というものがあります。これは五行それぞれに関連することがらが配された表です。それによれば、春は、東、肝臓・胆のう、酸味、青、目などとともに木気に配属されています。春が木気、というのは説明するまでもないでしょう。冬の間眠っていた植物がモゾモゾと芽をのぞかせ、伸長を開始するのは、まさに春だからです。木に象徴される上昇する自然界のエネルギー、これが春を特徴づける木気であります。

この木気に養われるのが、肝臓・胆のうという胴体の右側に位置する臓器です。なぜ右側かというと、体の右側は左側よりも、より上昇する陰の気を受けやすいからです。反対に左側は、より下降する陽の気を受けやすくなっています。なので、春は肝臓・胆のうを強くするのに一年で最も適した季節であるといえます。しかしながら肝臓・胆のうが病んでいるときには、木気を受け損ねて逆に不調が表れやすいかもしれません。

ここで肝臓といっていますが、西洋医学的語法で肝臓というときには臓器そのものを指し示すのとは違い、東洋医学的語法では臓器だけでなく経絡も含めた全体的な肝の働きを表します。その意味では「肝」と呼ぶのが適切かもしれません。

その肝ですが、肝は目を司るといわれ、肝臓の不調は目に表れやすくなります。怒りの感情を制御するのも、肝です。従って肝臓のわるい人や、必ずしも臓器の肝臓だけでなく肝経の気の流れに支障をきたしていると、イライラしたり怒りっぽくなります。癇癪という言葉がありますが、これは肝の病という意味です。肝を病むとは、すなはち癇癪であり怒りを爆発させる病だ、といっているのです。このような五行と臓腑との関連は、必ずしも科学的根拠があるわけではありませんが、ストンと腑に落ち、なるほどと納得できます。

マクロビオティック食事法では、五行説に従って食べ物を分類しています。例えば、穀物では麦、海藻ではわかめ、野菜ではねぎ、納豆、梅干、レモンなどが木気と同調する食べ物です。

五行表においても、酸味は木気に配されています。梅干の酸、酢の酸、レモンの酸などの酸です。この酸は、同じ木気に属する肝を養います。このことが体感的に分かるのは、例えば梅干しを食べたときです。梅干を口いっぱいに含むと、どうなるでしょうか?おそらく口いっぱいに酸味が広がって、それからその酸っぱさに目が丸くなって、目元がすーっとするでしょう。酸味は肝を養い、肝は目に通じるというわけです。

これさえ食べていれば肝臓がよくなるという魔法の食べ物はありませんが、肝臓が苦手とする食べ物を避けるのが基本です。肝臓は、上昇する陰の気の流れによってよく働くことができる陽の臓器なので、肉など陽性の強い動物性食品の食べすぎにはあまり耐えられません。一方、極陰性の化学物質、砂糖、アルコール、コーヒーなどの刺激性飲料にも弱いので、中庸の食事を心がけるのが肝要です。

特に肝臓を意識して食事法を実践したい人にお勧めの飲み物は、麦茶と青汁です。青汁といっても自家製の緑野菜ジュースのようなものです。ねぎ、クレソン、春菊などの青い葉野菜を細かく刻んで、水とともに少し煮立てて、できあがりです。

既に肝臓病を患っている人には、家庭療法の薬用茶で人参大根茶がよく処方されます。この薬用茶の効用は、動物性食品の食べすぎによって肝臓にたまった脂肪を晴らすことです。切干大根干しいたけ茶という薬用茶は、肝臓の不調からくるイライラを落ち着かせる効用があるようです。

自然に同調する生き方・生活方法が、マクロビオティックそのものです。ぐんぐんと上昇する春のエネルギーを心身で受け止め、いっぱい吸収しましょう。そして大いに夢を育んでください。それが春という季節なのですから。

2012年3月

|TOP|