陰陽について

はじめに

マクロビオティックの哲学は、陰陽理論に基づいています。それゆえ、マクロビオティックと陰陽理論は切っても切り離せません。マクロビオティックを学ぼうとしますと必ず陰陽がでてきますし、また学べば学ぶほど陰陽が織り成すその深遠な森羅万象の真理が、分かるようで分からなくなります。簡単なようで奥深い、それが陰陽理論です。

またマクロビオティックは一般には食事法として認識されていますが、同時にホリスティク医学の側面をもっています。そのさいの診断法は、陰陽五行説に基づいた医学理論が用いられます。

陰陽理論と陰陽五行説とは、多くの部分で重なり合います。陰陽論と五行説はともに古代中国に起源をもつ哲学思想、といいますか森羅万象の原理です。両者は漢の時代に一体化され、今日陰陽五行説と呼ばれています。陰陽五行説は、易、気学、占いの類から医学体系に至るまで、その根幹をなす原理となっています。東洋系の占いの冊子などにも、陰陽理論や陰陽五行説の簡単な説明や図表が掲載されていたりしますから、なじんでいる人もいることでしょう。

陰と陽

私たちは既に、陰と陽それぞれに既製のイメージをもっています。陰陽を今さらとりたてて説明される必要を感じないかもしれません。陰のつく熟語を思いつくまま挙げますと、陰気、陰惨、光陰、陰険、陰徳、陰影などがあります。陽のつく熟語は、陽気、陽光、太陽、陽春、陽炎、陽動などです。概して、陽は明るく、陰は暗いイメージがありますから、どうしても陽性の方が肯定的、陰性の方が否定的にとらえられがちです。しかしながら、これらはあくまでも日本語のなかに現れた陰陽のイメージにすぎません。

陰と陽は、互いに補い合う関係です。どちらか一方が欠ければ、どちらも存在できません。互いを映し合います。これはとても大切な概念です。陰なら陰、陽なら陽というものが絶対的に存在するのではありません。このことは、男と女の関係に例えられます。男という存在は女という存在があって初めて男であり、女という存在は男という存在があって初めて女なのです。「男は陽、女は陰」という言い方ができるのも、男女の互いに並立的で引き合う関係が、陰陽の互いに補い合う関係を反映したものだからです。

余談になりますが、陰陽を理解するのに男と女の例えが引用できるのは、日本語の優れた性質です。これをもし英語で説明しようとしたら、ちょっと変なことになります。英語で男はman、女はwomanですが、womanはwombのあるmanということですから、それではmanはいったい何者か?という疑問が生じます。ちょっとややこしいですね。manは一方で人を意味します。「子宮をもった人」それがwomanすなはち女だと英語ではいうわけです。それでは、manは人なんでしょうか?それとも男なんでしょうか?両方?そんなバカな、です。このような論理破綻を、英語の世界観は内包しています。これは、男と女を表す英語の言葉が並立的かつ相補的でないところからきています。

陰は遠心力、陽は求心力

陰陽は、対立的でありながら、互いに補い合う関係です。それぞれの影響力によってもたらされる性質を表したものが、以下「陰陽の性質表」です。代表的なものを抜粋しました。

          
[陰陽の性質]表
陰▼ 陽△
上昇方向 下降方向
高い 低い
暑い、温暖 寒冷
真空 圧力
空洞
柔らかい 固い
湿気が多い 乾燥
短時間 長時間
速い 遅い
大きい 小さい
空間 時間
未来 過去
女性 男性
精神的 肉体的

陰とは、遠心力の影響から生じる性質であり、陽とは、求心力の影響から生じる性質です。従って、陰は拡散的、陽は凝縮的といえます。

項目のなかで、「大きい」が陰に、「小さい」が陽に振り分けられています。これは、拡散的な影響力がより大きい陰は大きな性質を作り、凝縮的な影響力がより大きい陽は小さな性質を作るということです。同様に、陰の作用は柔らかさを生じ、陽の作用は固さを生じます。

混乱しそうなのが、「暑い」が陰に、「寒冷」が陽になっていることです。その逆のイメージがありますね。これは、陰陽それぞれの影響力によって生じる性質を示していますので、陽性の影響力は寒冷な気候(陰性)を作り、陰性の影響力は暑い気候(陽性)を作るということです。しかし気候それ自体の性質としては、暑い方が陽性で、寒い方が陰性であるという言い方をします。

一つ注意したいのは、陰が百%になったり、あるいは陽が百%になるのではない、ということです。陰陽いずれかが優勢のとき他方は劣勢になりますが、やがてその優劣が逆転していきます。その動きのなかの変化の相が、陰陽で表される概念であると覚えておきましょう。陰陽のイメージを固定化せず運動体として連想を広げていくと、より的確に把握できると思います。

森羅万象の源

陰陽はどこから生じるのでしょうか?陰陽は、太極から生じます。この太極が、森羅万象の源です。太極図をご存知でしょうか?きっとどこかで目にしたことがあると思います。太極図は、一なる太極から陰陽が分かれるようすを図案化したものです。そして陰陽それぞれの影響力の差によって、固有の性質をもつ物質が形作られます。

太極から陰陽二極が分化し万物の創造するというこの陰陽理論と同様のモチーフは、古代の創造神話のなかにも登場します。インド神話では最高位の創造神であるブラフマンが太極に相当し、ブラフマンからシバ神とシャクティ神が生まれたといいます。日本の神道では天御中主命が高皇産霊命と神皇産霊命を生む姿に、陰陽がなぞらえられています。古代の哲学や神話における原初の創造神の存在は、どうやら万物の源である絶対的な領域を表しているようです。

実は現代科学も、同様の理論に到達しています。量子物理学において、物質の最小単位は素粒子であることが発見されました。この素粒子とは、もはや物質としての実体性がなく、その存在が確立的にしか描写できない波動体です。このことにより、すべての物質は波動からできているという科学的事実が明らかになりました。素粒子論と陰陽理論はどこか通じるものがあります、こうして両者を比べますと、陰陽理論は哲学というよりもむしろ科学ではないかという気がします。なぜなら、陰陽理論は自然法則の知識であるからです。

仏典の一つである般若心経のなかには、「色即是空、空即是色」という有名な一節があります。この句は通常、この世の無常感を意味していると解釈されます。しかしながらこの句をよく見ますと、これはそのような文学的な表現ではなく、自然法則を表した客観的表現であることが分かります。これを訳しますと、物質界というものは波動が顕現したものであり、波動とはすなはちすべての物質を生む元である、となります。物質というものは固定しておらず移り変わるものであるという事実が「色」で、実体が希薄な素粒子の性質が「空」で、巧みに表現されています。

陰陽五行

太極から分かれた陰陽は、それからどうなるのでしょうか?陰陽はその後も分化し続け、物質を形作ります。そのさい、五つの特徴をもつ状態へと変化する、と説くのが陰陽五行説です。その五行とは、木、火、土、金、水です。これら五行は、図で示されるように循環する円を巡ります。

木、火、土、金、水の各々の行、例えば木なら木は、必ずしも木そのものを指してはいないのですが、そのものと解釈してイメージを膨らませることもできます。木を燃やすと火になり、火が燃えて残った灰は土になり、土のなかから金は堀りだされ、金は水に洗われて、水は木を養う、というイメージです。

ちなみに中国起源の暦で用いられる十干は、五行それぞれに陰陽を割り当てたものです。ここでは陰を弟、陽を兄と表し、木の兄が甲(きのえ)、木の弟が乙(きのと)、火の兄が丙(ひのえ)、火の弟が丁(ひのと)、土の兄が戊(つちのえ)、土の弟が己(つちのと)、金の兄が庚(かのえ)、金の弟が辛(かのと)、水の兄が壬(みずのえ)、水の弟が癸(みずのと)です。これに十二支が組み合わさって十干十二支になります。

木、火、土、金、水は、木気、火気、土気、金気、水気、あるいは木性、火性、土性、金性、水性と表されることもあります。これは、五行をよりエネルギー的状態として認識する表記といえます。そこで五行を物理的状態としますと、以下のようになります。木の状態では、分子が比較的速く振動しています。火の状態になると振動が加速し、電子、陽子が自由に動き回りプラズマ状態になります。土の状態になると、素粒子の動きが遅くなり、原子・分子へと固化し始めます。金の状態では、振動が遅くなり最小になります。そして分子が固く結合します。水の状態になると、固まった分子の結合が緩み始め始め、固体から液体になります。

五行とは、上昇し、爆発し、下降し、凝縮し、溶解する動きの一相面です。そしてその循環する動きが、森羅万象を形作ります。そこで以下の表にあるように、季節、方角、色といったことがらが五行に分類されます。このなかには臓腑も五行に割り当てられており、経絡理論とともにこの概念が東洋医学において応用されます。マクロビオティックにおいても同様です。

[陰陽五行表]
季節 土用
方角 中央 西
緑(青)
臓腑 肝と胆 心と小腸 脾と胃 肺と大腸 腎と膀胱
感情
五根
肌肉

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