岐路に立つ人類アレックス・ジャック

原文:『Humanity at the Crossroad』by Alex Jack
出典:『OPWニュースレター1997年春号』

アレックス・ジャック[プロフィール]

マクロビオティック教師・カウンセラー。1960年代、ジャーナリストとしてベトナムですごす。インドで哲学・宗教を学んだ後、1970年代ボストンのクシミチオの下で本格的にマクロビオティックを学ぶ。これまでに、マクロビオティック関連の著書25冊以上を著す。

[目次]

クローン、狂牛病、そのほか気懸かりな現代の問題について

『今後二、三年以内に、人の病気治療用の蛋白質を含有する乳をだす家畜動物を作ることができると確信します』。スコットランドの科学者で、先日ドリーという名のクローン羊を作って世界中に電撃的ショックを与えたイワン・ウィルマット博士は、三月米国国会内で開かれた公聴会でこのように述べた。

『クローン子羊ができたのなら、次にクローン人間ができるのはまだ遠い先のことだろうか?』世界中のだれもがこう思った。政治家、神学者、社説の権威らが、人の複製を作ることに疑問を投げかけている。しかしその一方で、この新しい技術の背後にある農業・食・医療における前提についてはほとんど論じられることがない。ウィルマット博士がこの実験を行った目的は、公には“よりよい”肉、卵、牛乳、そして薬を供給する牛と羊を作ることとされている。

ウィルマット博士の研究に資金援助した生物工学の親会社、PPLセラピューティクス社は既に遺伝子組み換えによって、のう胞性線維症を軽減する目的で人の蛋白質を含有する乳をだす羊を作った。その蛋白質、アルファ・ラクトアルブミンは、授乳できない未熟児用に粉末状の形で商品化され販売される予定である。PPL社はその新しい“栄養調剤”が、今後十年間に十億ドル規模の市場に成長することを見込んでいる。

クローンへの殺到

二十年前、遺伝子組換えネズミが史上初めて作られてからというもの、さまざまな種類の遺伝子操作により生まれた動物実験用げっ歯動物が利用可能となった。種の壁を超えた遺伝子操作製品の開発に鎬を削る研究者、バイオテクノロジー企業、政府機関は、クローン羊ドリーの後に続こうともっと大きな哺乳動物のクローン体開発に走り始めた。

クローン技術の医療分野への応用は、これら以外に多肢硬化症、心臓病、パーキンソン病などの治療のため骨髄、心筋、脳の組織を再生すること、ガン細胞の増殖を阻止すること、血友病治療のため血液凝固作用のある薬を作ること、白血病治療のため骨髄細胞移植を確実にすることなどへの期待がかけられている。

クローン技術と健康

以上掲げた数例の動きからも明らかなように、クローン開発競争の主な動機は次の三つである。1.利潤の追求、2.動物性食品の摂取、3.現代医学研究と治療。それぞれの意味するところを見てみよう。

『何もかも差しあげましょう。私はただものごとを理解したいだけなのです』。歴史的実験の発表後、ウィルマット博士はこのように語り、金持ちになることが研究の第一の動機であるとの見方を否定した。ドリーを作ったことへの報酬として、たった二千五百ドルという研究報酬の相場からすれば小銭でしかない額を受け取った博士の場合は例外である。遺伝子工学研究によって利潤を追求する道が開かれたのは、1980年アメリカ連邦最高裁判所が、遺伝子操作により作られた生命に特許権を与えることを合法とする判断を示したときである。以来、何十億ドルもの巨額の資金が、遺伝子工学研究に投じられた。その結果、アグリビジネス企業が遺伝子操作技術に殺到し、新たに開発された遺伝子操作種子の特許権を次々と獲得したために、何千種類もの伝統的な在来種が縮小・消滅の浮き目に会った。

そればかりか、新しい種の特許権の獲得が可能になったことは、従来の医療の優先順位を歪曲している。数年前のことだが世界的に結核が流行したとき、かつて結核の“魔法の特効薬”であったストレプトマイシンが利用不可能になっていることを、合衆国食品医薬局が発見し驚いた。ストレプトマイシンには特許権がなく安いので、それを製造する製薬会社が存在しなかったのである。しかしストレプトマイシンがあれば、その緊急時に大勢の命を救えたにちがいない。

政府や医科学団体はほぼこの三十年間、動物性食品をかなりの量減らしその代わりに完全穀物と野菜、そのほかの植物性食品をもっとたくさん食べるように呼びかけてきた。しかし、バイオテクノロジー企業は新しい栄養指針を守る努力をするどころか、それを利用して自ら脂肪の少ない食べ物を開発することを正当化している。ウィルマット博士の予想では、もうすぐ低脂肪乳をだす乳牛が開発され、乳房から直接低脂肪乳が搾乳できるようになるという。

現代栄養学では、栄養素の化学的構造だけを見て食べ物を評価する。食べ物のもっているエネルギー的性質を無視するので、例えば次のような比較をしたときに、意義深い差異が発見できない。すなはち、栄養強化白米と玄米、自然受粉された在来種とうもろこしとハイブリッド種とうもろこし、自然放し飼いの牛肉・牛乳とクローン牛肉・牛乳の違いである。また、両者の人の健康への影響も区別できない。同様のことは、ガスや薪の火など自然燃料による調理と電気・電子レンジ調理の違いについてもいえる。

病気予防に食事が一役買っていることは、今や現代医学も認めるところである。しかし、食べ物に備わっている治癒力を見過ごしているので、なくなることのないガン、心臓病、神経系疾病、そのほかさまざまな病気への食事を用いた治療法が採用されたり資金援助されることはめったにない。クローン技術に好意的な医療の議論は、解決に自然の力を利用する方法とことごとく対立する。バランスのとれた穀物と野菜中心の中庸の食事は、たいていの退行性疾病を予防し治療するのみならず、心臓移植、腎臓移植、肝臓移植、骨髄移植の必要をなくする。自然有機農法は、化学的遺伝子操作農業に対し、安全で健康によい実効性のある代替案を提示している。

より大きな視野

より大きな視野で考えると、クローン技術は現代社会が全般的に生物学的・精神的に退化しつつある中での、最新の潮流にすぎない。遺伝子治療、羊水穿刺(胎児の性別決定)、試験管ベビー、経口避妊薬、人工妊娠中絶などの近年の生殖医療技術は、人の生命の進化を根本的に変えてしまった。

このような新しい生殖技術登場の陰で、別の退化現象が進行している。不妊である。推計では、現代人の夫婦三、四組に一組が不妊であり子どもをもつことができない。それゆえ、生物学的父親を提供する精子銀行、代理母、そのほかの人工的な生殖方法が存在する。この世代で男性の精子数は激減している。精子数が減少した男性の数は平均して全体の50%近くに上り、これは牛乳、アイスクリーム、果物、砂糖、アルコールなどを多量に摂取したことが原因である。自然な解決方法は、穀物と野菜中心の食事をすることである。1994年、イギリスの医学雑誌ランセットに、有機栽培農民と無農薬農作物を多く食べている労働者は、従来の栽培方法で作られた農産物を食べている人々に比べ、精子数が二倍であったことが報告された。女性の不妊症の率も上昇しているが、これは、ハンバーガー、ツナ、卵、そのほかの動物性食品を多量に摂取したことが原因である。こうした食べ物の脂肪、コレステロール、粘液が卵管を詰まらせ、受精を妨害する。

哲学者や女性学者は、早くもクローン技術と新しい生殖技術の結末を見ている。それは、家族の終焉だ。『結婚が必要ない世界を想像してみたまえ』。ドリーがメス羊単独で誕生したことを受けて、ミシガン州ホーランドのホープ大学で倫理学を教えているアレン・バーリィ氏はこのように述べた。クローン技術の行き着く先を見越すように『男性が不要になります』と皮肉混じりに語るのは、ワシントン大学の細胞生物学者、ウースラ・グッドイナフ氏である。

シカゴ大学のレオン・カス社会思想学科教授は、『科学はゾッとするような境界に足を踏み入れようとしています。人類は、技術開発が強引に踏みならす道筋に乗っかってこのまま進むのか、はたまた技術開発をコントロールしその方向性を導いてゆこうとするのか、二つに一つの岐路に立たされています』と警告する。

一般の人々のクローン技術への意見は複雑だ。最新の調査では、アメリカ人の53%が、クロ-ン技術の動物実験に反対している。その一方で71%が、人命を救う目的でクローン技術を医療に用いることには賛成している。無条件でクローン技術に賛成した人は6%だった。

次なる伝染病

ドリーの誕生が発表されると、クリントン大統領は賢明にもクローン技術の人への応用研究に国費を投じることを禁止し、同時に民間における同様の研究を凍結する決定を下した。しかしそこまでであった。バイオテクノロジーの使用と新種の食べ物、動物、薬品の開発研究も停止されるべきであった。

そうしなければ、新しいウイルスや伝染病がまた再び繰り返されるだろう。遺伝子組換え植物125品種を調査した研究では、全体の3%の品種は別の品種と遺伝子を交換することによって、病原性の新しいウイルスを生じたことが判明した。手動で遺伝子操作されたとうもろこし、小麦、トマト、そのほかの植物には、遺伝子物質を交換することが可能なウイルスが共通して5種類ほどいる。科学作家ローリー・ガレ氏は、著書『次なる伝染病』の中で『細菌の変異性というのは、細菌があたかも顕微鏡下でトランプカードをするように、遺伝子物質を互いに交換し合ったり共有することができる能力に関係しており、そうした能力の前では、人間はなす術がないように思える』と述べ、自然を征服できると考えている科学者や医師の傲慢さに警鐘を鳴らした。

カナダ人微生物学者ジュリアン・デイビス氏も『微生物は遺伝子工学の達人です』と述べ、ガレ氏の意見に賛同する。結核、肺炎、コレラをはじめ第二次世界大戦後消滅したと思われていた病気が、抗生物質やワクチンなど薬剤の過剰投与によりさらに強力になって戻ってきた。二十世紀後半、薬剤の爆発的拡大がもたらしたのは、より強い毒性をもちさまざまな薬の抗生物質に耐える別のウイルスに即座に変化しうる、進化した“超微生物”の登場である。AIDSと関連する“ステルス・ウイルス”HIVは、モノカルチャー(単一栽培)、農薬・化学肥料の使用、抗生物質など薬の過剰投与といった環境的・医療的介入の結果、毒性をもったつかみどころのない性質を獲得したと信じられている。すなはち、土壌が消耗し、食物連鎖のつながりが弱体化し、人の血液が免疫抑制的性質になる中で、HIVはより強力で致死のウイルスへと進化していったのである。

感染症は、二十一世紀にはガン、心臓病、そのほかの慢性疾病に代わって主要な公衆衛生への脅威となることは確実である。今後十年間で、マクロビオティック・カウンセラーや医師らが主に向き合うのは、結核や局地的出血熱をはじめとする伝染病の患者になることだろう。(地球温暖化は、これらの病気を促す。気候の変動により蚊の繁殖範囲が拡大するにつれ、ニューヨーク、東京、ローマといった北緯に位置する場所でもマラリアが発生する可能性があることが、既に科学者らによって指摘されている。)

微生物が急激に増殖する病院そのものが、病気と死の危険地帯と化している。エボラなど致死のウイルス性疾病は、元々病院で発生した。病原性の肺炎や結核などの病気は、今や合衆国の十大死亡原因の一つである。国内の病院はどこも、院内感染の拡大を防ぐために院内感染委員会を設置している。病院薬剤師もだんだんと、抗生物質や薬剤を多量に投与する医師に対して拒否権を行使するようになっている。毎日、何百万人もの人々が定期検診のため病院を訪れ、そこでそうとは知らずに有害な微生物をもらい、去ってゆく。

異種間の臓器移植もまた、感染の新しい方向性を指し示している。1993年から1994年にかけて、猿の肝臓が初めて人へ移植された。医学界は歓迎したが、そのヒヒ(合衆国最大の霊長類研究施設サウスウエスト財団より獲得した)が、SIV(AIDSに関連する猿人類免疫不全ウイルス)、CMV(猿のサイトメガウイルス)、エプスタイン=バール・ウイルス、猿人類エージェント9(ヒヒのB型肝炎ウイスル)に感染していたことが判明した。しかし、おそらくは幸運にも患者の免疫抑制された体内で猿のウイルスが活性化する前に、患者自身が死亡したのである。1997年初頭、英国政府は、異種間臓器移植を禁止することを発表した。合衆国では、上層の医学専門家委員団が最近、異種間臓器移植を公認した。

遺伝子をめぐる間違った考え

『羊のクローンを忘れよう!』「フォーチュン」1997年3月号の一面前段抜き見出しに、この文言が躍った。『我々の遺伝子暗号を解読する熱くも新しいバイオチップが全てを変える』、1990年、人ゲノム計画が開始された。この計画は、合衆国政府が出資する十億ドルもの大規模なもので、国際的な協力体制の下、何千人もの科学者の手を借りながら十万人の遺伝子とDNA上での暗号化された三十億万個の遺伝子情報地図を作成することを目的にしている。その基礎にある前提は、病気は遺伝子によって決定され、どの遺伝子の整列が、例えば腫瘍やアミロイド溶菌斑を発症させる引き金になるか特定できれば、ガンやアルツハイマー病に有効な遺伝子治療が可能になる、という考えである。

「フォーチュン」によれば、投資金がクローン技術にではなくバイオチップもしくはDNA配列を作る企業に流れているという。既に、医師向け遺伝子選抜用具一式が使える状態にあり、今後十年以内に家庭用携帯型DNA走査バイオチップが、安い価格で利用可能になるだろう。何十億もの資本が新しいゲノム企業に投じられている。大胆にも遺伝子検査という新しい世界が我々に約束するのは、どの病気にかかりにくくするか自ら決められるだけでなく、子孫のためにどのような性質、例えば髪の毛、皮膚、目の色、知的か社交的か、あるいは運動選手向きかといったことを設計するために我々自身が遺伝子を選択できる、ということである。

このような健康と病気に関する新しい遺伝子様式に対して、小さいが明瞭な科学者・研究者・文筆家の団体が異議を唱えている。リングア・フランカ3月号『遺伝子機械を監視する』の中で、アーサー・アレン氏は『遺伝子を研究すればするほど、実際全体像はより不確実であいまいになる』と主張する。以下、彼の記事から引用する。

過去十二年間、異なる十六の団体がそれぞれ、躁うつ病に関係する遺伝子を十一の異なる染色体上の十五の異なる位置に発見したことを発表した。しかし、科学大衆誌のふれこみでは、これらと一致するものは発見できないだろう。

『イデオロギーとしての生物学-生物学はDNA教条主義に陥った-』の著者で、ハーバード大学の著名な遺伝子学者リチャード・C・レウォンティン氏は、遺伝子が病気を決める新しい考え方を否定する。彼の考えは、遺伝子は一人一人異なっているので人ゲノムの標準はあり得ないと訴える。『その人の最後のDNA配列が、だれか平均的な人のDNAの寄せ集めになると仮定されるが、それに当てはまる配列をもつ人は現れない』

レウォンティン教授の結論は、遺伝子は人の成長に影響を与えるが決定はしない、というものだ。人の成長と行動・ふるまいは、彼曰く環境と栄養状態に左右される。『遺伝子への熱狂は、我々にチューリップマニアや、大衆が幻想を抱いて株に踊った南海泡沫事件を思い起こさせる。・・・・しかし、最初に分子生物学の分野で“遺伝子組み換え”が発見がなされて以来明らかなことは、遺伝子配列を操作して遺伝子組換え有機体を作ることが私的利潤を追求する大きな可能性を秘めている、ということである』

『遺伝子神話探求』の中で、ハーバード大学の生物学者ルース・ハバード氏と科学作家エリア・ウォルド氏は、同じ結論に達した。すなはち、彼らの考えでは、ゲノム計画は科学的にも知的にもイカサマ同然であるばかりでなく、研究者が問題解決を怠ることに貢献している。『大衆の関心を微生物や遺伝子に集中させることによって、科学者は自らの社会的影響力を不問に伏すことに成功している。また、病気予防を科学研究室と実験室の領分に押し込めることによって、自らの独占体制を確実にしている』

人類は方向転換できるのか?

今からおよそ2世紀前、メアリー・シェリーは大人の体の部位に電気ショックを与えて人工人間を作る科学者(ウィルマット博士が用いた方法と同じ!)の物語、『フランケンシュタイン』を著した。なぜ、今日の科学者、研究者、議員らは、人類がメアリー・シェリーが予言した通りの岐路に立っていることが分からないのだろうか?その答えは、一部には富だ。『最小の小銭が最大の山を隠す』ということわざがある。社会が遺伝子研究を認可する主な理由は、私的利益、研究補助金、ノーベル賞などへの誘惑もあるが、大部分の人々とりわけ裕福で最高の教育を受けた人々が、牛肉を食べ、牛乳を飲み、大量の砂糖を摂取しているがゆえに単にこの危機の重要さを認識できないからである。ゆきすぎた分析的・部分的思考、群集心理、物質的傾向は、動物食をする人の特徴である。一方、自然を全体的にとらえ理解する能力は、完全穀物中心の食事をすることにより得られる。もしくは、穀物中心の食事をしてきた先祖から強い体質を受け継いでいるか、である。(むろん、こうした傾向は相対的である。バイオチップの共同開発者で最も熱心なゲノム企業の一つ、アフィメトリックス社社長のステファン・P・A・フォドア氏は菜食主義者だ!)

人間の質的低下傾向は、悲しいことだが、二十世紀後半に生を受け頑強な体質を引き継がなかった我々の大部分に、既に影響が及んでいる。このような衰退に直面する中、数多くの人々がマクロビオティックを見つけ、肉体的健康、感情的安定、社会的意識を取り戻していることは奇跡的である。おそらくメアリー・シェリーは、嵐のような未来図を予見したにちがいない。なぜなら、彼女自身、夫で詩人のパーシィ・シェリー氏とともに菜食主義を守り、イギリスの肉食文化に属することを選択しなかったのだから。

農業革命、産業革命、そして今度はクローン革命の発祥地である英国が、既に十数名の人命を奪い、肉食産業の手足をもぎ、今後数十年間に何百万人もの人々の健康被害をもたらすと医科学的に推計される新しい破壊的伝染病、狂牛病の発祥地でもある、というのは皮肉である。

著作『原子爆弾製造』でピューリッツァー賞を受賞したリチャード・ロデス氏は、直近の著書『死の祝宴』の中でその才能を、過去十年間英国産牛数百頭を襲った狂牛病、正式名BSE(牛海面性脳症)の発生を文章で証明する作業に捧げた。1996年、英国政府の健康担当官は、汚染された羊の脳を食肉牛に与えたことがBSEを発生させた原因であること、そして汚染された牛肉や牛乳を食べた人は、人のBSE感染症クロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)にかかりやすいことを公式に認めた。CJDは治療法が全くなく、常に致死の病気である。この時点で、推定で英国内の食肉牛五十頭に1頭の割合に相当する七十万頭が感染していた。その後、英国産牛肉の不買運動が国際的に湧き起った。不買製品にはキャンディー、クッキー、口紅、咳止め薬といった獣脂を原材料に作られる製品も含まれていた。その後BSEは、そのほかのヨーロッパ諸国でも発生した。TSE(伝染性海面性脳症)の世界的権威カールトン・ジャジュスク氏はさらに踏み込んで、英国のほとんど全ての家畜はTSEに感染しているが、病気が発症する前に屠殺され食肉が市場に出回るので、病気の診断ができないだけだと考えている。『英国産の豚はおそらく全頭感染しています。これはただ単に豚だけを意味しているのではありません。豚皮の財布や手術に使われる腸線の糸も含まれます。なぜなら、それらは豚の組織から作られるからです。肉骨粉の飼料を与えられた鳥もまた、おそらく感染しているでしょう。肉骨粉の飼料は感染を拡大させます。菜食主義の人も、野菜に付着した鳥や牛の排泄物を通じて感染しないとはいいきれません』

BSEは元々、羊から牛へ感染したと考えられている。羊に関係するTSEすなはちスクレイピーは、1980年代初頭、屠殺場が合理化され肥育家がくず肉や動物の死体あるいはそのほかの体の部位の混ざった羊の脳から作られた飼料を増やし始めてから、明らかに牛に伝染した。レンダリングとして知られるこの習慣は急速に畜産業界に広まり、家畜用飼料の全供給量の1%から13%を占めるまでになった。また史上初めて、牛の肉骨粉が牛の飼料に使われるようになった。このことを指し、『産業界の共食い習慣』とロード氏は呼ぶ。共食いの影響は、ニューギニア原始人の間に見られた脳を破壊する病気、クールー病によく似ている。つい最近まで、この部族は、儀式で死んだ親類縁者の人肉を食べる風習をもっていた。アメリカ合衆国では1980年代初頭CJDが爆発的に発生したが、この頃は人の死体の脳から採取された汚染された脳下垂体が人工ホルモン治療に常用されるようになった。両者の関連が突きとめられないうちに、八十名の若者が死亡した。(新しい遺伝子組換え成長ホルモンには、人のDNA遺伝子にイースト菌を組み込んで作られたものであるが、現在イースト菌は墓地から採取されたものが使われている。)

英国の医師リチャード・レーシィ博士は、牛と人との関係がまだ認識されていない数年前から警告を発していた人物であるが、感染源はなおも人の食料供給の中に入り込んでいると考えている。『CJDの潜伏期間が平均でおよそ二十五年もしくは三十年間だとすると、発症の絶頂期は2015年あたりになるでしょう』博士の予測では、そのときまでに英国のCJDによる死亡者数は年間二十万人に上ることもあり得る。

合衆国政府の健康担当官によると、BSEはアメリカには発生していないが、TSEは、奇怪な死に方をする“ダウナー症候群”の牛をレンダリング加工処理して作られる動物性飼料を与えられたミンクには発生している。ウィスコンシン大学の家畜衛生・生化学部委員長、リチャード・F・マーシュ氏は、政府の楽観論に異議を唱える。『国内の食肉牛は、スクレイピーに似た未確認の病気に感染しているはずです』と、マーシュ氏は断言する。『BSEはアメリカに伝染したのか?』とロデス氏は疑問を投げかける。『その答えは次のようなものになりそうです。既に原型の低レベルのBSE感染が米国内にあり、それは産業的共食い習慣が続くかぎり、伝染病の爆発につながる恐れがあります。肉骨粉飼料はいまだに牛に与えられています。推定で七千万人のアメリカ人が毎日牛肉を食べています』。ちなみに、ハンバーガーの中にも牛の脳が混ざっている。

ロデス氏の推測では、狂牛病は今後数年間に世界を一巡するかもしれない。『肉を食べている世界中のどんな人々も危険から逃れられない』と彼は結論する。しかしその結論さえも十分とはいえない(関連記事を参照のこと)。彼はまた、肉を食べるだけでなく、肉骨粉に接触することでもCJD関連のウイルスに感染する可能性について言及している。肉骨粉は、芝生や庭用あるいは有機農産物によく使われる肥料の原材料の中に混ざっている。1997年初頭、農務省はこのような共食い習慣を禁止することを提案したが、食肉業界とその関連団体は猛烈に反対した。この問題については、これからも熱い議論が闘わされるだろう。

伝染病が爆発的に広がれば、クローン技術への手形更新を推進する力は疑いようもなく強くなり、人工的な解決方法を模索する動きはいっそう激しくなるだろう。仮にこのような黙示録的な科学シナリオが実現しなかったとしても、遺伝子戦争の脅威は常に存在する。軍事化学者や軍事生物学者は、敵の農産物を破壊するため、あるいはききんや疫病を起こすための遺伝子組換え物質を秘密裏に放出することが可能である。インドのG・S・パント大学農学部部長、A・N・スクポパデアィ博士は、『それは簡単に実行できます。科学空想物語ではありません』という。インドは、隣国パキスタンと常に緊張関係にある。(エイズ、エボラ、狂牛病は、冷戦下秘密裏に行われた生物戦争実験もしくは失敗した遺伝子組換えワクチンの悲惨な結末である、との根強い臆測もある。)

自然界の生物進化過程に遺伝子が介入する現代科学の行き着く先は、クシミチオが三十年間言い続けてきたように、外見は人間そっくりだが数百万年の生物的・霊的進化の年月から切り離された人造人間の創造である。

化学農業の拡大、“フランケンシュタイン食品”(遺伝子組換え食品や放射能照射食品)の出現、新しい生殖医療技術の進歩、新しい伝染病の発生、クロ-ン技術と遺伝子工学の発達は、空前絶後の大災厄をもたらすだろう。クローン羊ドリーの登場は、五十年前に原子力が登場して以来最も戦慄を覚える科学的出来事である。これらに我々がどのように対応するかは、単に新世紀と新千年紀にとってだけでなく、未来の地球上の生命体全てにとっても大きな課題である。

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最近は、スシ・バ-、屋外バーベキュー、マクロビオティック・パーティなどがさかんだが、鮭にも狂牛病の危険がある。というのは、市場に出回る鮭の大部分は養殖場で飼育され、商業的動物性飼料を与えられており、肉骨粉として知られるこの飼料は通常破砕されたくず肉、動物の死体、病気の牛や羊そのほかの動物の内臓さえもが原材料として作られているからである。

厳しい貿易規制のため、現時点でTSE(狂牛病のような伝染性海面性脳症)が英国やヨーロッパ諸国からアメリカに伝わったという証拠はない。しかしながら、著名な科学者らは、合衆国内には未確認の低レベルの感染が既にあり、どんな形であれ牛肉、乳製品、牛製品を摂取した人は危険があると確信している。慎重をきすなら、鮭、マス、そのほかの国内養殖魚を食べるのを避けるか最小限にし、化学物質や農薬汚染が比較的少ない海洋魚を選ぶ方がよいだろう。

ペットフードは、商業的に飼育された魚、牛肉、鶏肉、七面鳥、そのほかのTSE感染源となる可能性があるので、とりわけ慎重に選ばなければならない。犬猫に健康的でバランスのとれた食事をやるには、ノーマン・ラルストン博士の新著『ペットを健康的に育てる』を読むことをお勧めする。

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狂牛病やそのほかのTSEは、ウイルス、細菌、微生物などが原因ではない。病気は、プリオンと呼ばれる伝染性のプロテアーゼ耐性蛋白質に関係している。プリオンがどのように発生するかはまだ謎であるが(プリオンにはDNAがない)、プリオンは羊から牛、牛から人へと伝染する。そして脳に集中し、組織をまるでスイスチーズのようなスポンジ状の塊にしてしまう。

マクロビオティックの観点では、TSEになりやすいのは、肉、乳製品(スイスチーズを含む!)、砂糖そのほかの極端な作用をもたらす食べ物が原因である。面白いことに、プリオンは通常人体内で蛋白質を消化する酵素によって分解される。TSE患者は、この蛋白質を消化する能力がない。ということは、TSE患者は蛋白質の消化を完遂する酵素を分泌する小腸と膵臓の働きが不完全であると考えられる。

菜食主義者や牛肉を食べない人でさえ、感染の危険から免れない。狂牛病の最初の犠牲者の一人は、ピーター・ホールという若いイギリス人男性で、彼は少年時代にハンバーガーを頻繁に食べていたが、後年菜食主義に転じ、死亡する12年以上も前から肉を口にしていなかった。

近代マクロビオティックは、20世紀初頭にジョージ・オーサワが末期の結核を患い、病気を穀物と野菜中心の食事に変えることによって治癒したときに興った。彼は、血液、リンパ、消火器系、呼吸器管を酸性過多状態にする肉や砂糖などの食べ物を避けることにより、体内に有害な微生物が発生するのを防ぎ、強い赤血球、白血球、リンパが自然にそれらを体外に排出してくれる、と説いた。彼は存命中何千人もの人々を指導し、彼らが結核、ジフテリア、コレラ、天然痘から回復する手助けをした。

今日、マクロビオティックを実践している人は、菜食主義者や肉食をする人に比べて感染症はもちろんのこと風邪といったよくある病気にかかることがずっと少なくなってきてきる。しかし、オーサワが生きた時代に比べ今日は、土壌が化学肥料で疲弊し、水は汚染され、オゾン層は希薄化し、有機農産物にも気あるいは自然の磁気エネルギーが少なくなるという未曾有の環境破壊が進行しているので、バランスのとれた食事をしている人が必ずしもTSE、HIV、多剤耐性結核(MDR-TB)関連の桿菌、そのほかの毒性のある病原体に冒されない保証はない。

新しい伝染病の危険にさらされている人は、標準マクロビオティック食に従い、毎日強めの味噌汁を飲み(腸と消火器系を強くするため)、週に数回小豆とかぼちゃと昆布の煮〆を食べ(腎臓、脾臓、リンパ系のため)、定期的に海藻類を取る(血液、循環器系、神経系のため)ようにするとよい。梅干を定期的に食べれば血液を強くしてくれ、スウィートベジタブル・ドリンクは膵臓を良くしてくれる。熱い蒸しタオルで体を摩擦する、歩く、楽しく歌を歌う、精神的な習慣(祈り、瞑想、イメージ)を日課にすれば、環境と気エネルギーの交換が活性化し、感染症の予防に役立つだろう。

概して、マクロビオティック共同体は、新しい微生物やそのほかの感染源を恐れなくてもよい。しかし、今少し食事による予防をすることは、後に相当な医療を受けることにも匹敵する。

[参考図書]:Richard Rhodes著『Deadly Feasts:Tracking the Secrets of a Terrifying New Plague』(Simon & Schuster,1997)/Laurie Garrett著『The Coming Plague』(Penguin Books,1996)/R.C.Lewontin著『Biology as Ideology:The Doctrine of DNA』(Harper Pernnial,1991)/Ruth Hubbard & Elijah Wald『Exploding the Gene Myth』(Beacon Press,1993)

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