脂肪は致命的?

原書:フランク・オスキー著『Don't Drink Your Milk』第4章『Can Fat Be Fatal?』

アメリカ人はどの年代層も牛乳と乳製品の摂取量を減らすべきであると、アメリカ心臓協会をはじめ諸団体が警鐘を鳴らしている。それもそのはずだ。今 年、心臓病と動脈血管の病気で、約百万人のアメリカ人が死亡すると推定されている。わが国では、死亡者の二人に一人がこれらの病気で亡くなっている。この 百万人のうち約3分の2の人が、心臓発作で亡くなるであろう。さらに背筋が寒くなるのは、心臓発作で亡くなる人のうち15万人から20万人が65歳以下 の、それも働き盛りの男性であるという事実である。

こうした統計上の数字を改善するためにこれまでとってこられた対策は、なきに等しい。さて、皆さんよくご存知じのとおり、1977年生まれの人は 1900年生まれの人よりも長生きできるはずである。1900年生まれの人の平均寿命は55歳、現在では72歳である。しかし、この数字の裏には、それま で乳幼児期の子どもの命を奪っていた数多くの病気が消滅したことが平均寿命の伸びとして表れている、というカラクリが隠されている。数字の伸びた背景には に、ワクチン注射によって多くの伝染病が根絶されたこと、新生児の育児環境が改善したこと、そして一般的な栄養状態がよくなったことが、大きく貢献してい る。

1900年に45歳だった人は、70歳まで生きられる見込みがあった。現在45歳の人は76歳まで生きられると見込まれている。この75年間で、 たった6歳しか平均寿命が伸びていないとは、どういうことだろう?それは、平均寿命の足を引っ張る死亡率の高い病気がまだあるからである。その病気とは、 アテローム状動脈硬化症である。

アテローム状動脈硬化症とは、動脈硬化の一種で、動脈内壁のところどころに厚いたい積層ができる血管の病気である。この血管にくっ付いた“垢”が、 動脈内の血液を流れにくくし、組織器官に運ばれる酸素量を少なくする。この血管内のデコボコした部分には亀裂が入りやすく、場合によっては血管壁が弱まり 破裂したりする。また、これが最も恐ろしいことだが、その部分が血栓を作る土台になることである。血管中に血栓ができると、血液の流れを完全に遮断する。

アテローム状動脈硬化が進行すれば、体中のどこであろうとも、血管に障害物ができてもおかしくないが、最もよくできる場所は、脳、腎臓、脚、心臓に 通じる大動脈と中動脈である。脳内の血液の流れが阻害された時に、『卒中』になる。心臓の場合は『心臓発作』あるいは冠状動脈閉鎖になる。心臓の3つの冠 動脈のうちの一つが閉鎖されると、血管を命綱にしていた心筋は死んでしまう。この筋組織の壊死を、『梗塞』という。従って、『心筋梗塞』とは、心臓に送り 込まれる血液の流れが途切れる異常事態を意味する。

アテローム状動脈硬化症の原因は何だろう?1950年代までは、動脈硬化は、単に加齢による自然現象だと思われていた。しかし朝鮮戦争時代に明らか になった発見が、こうした考えを全て覆してしまった。その当時、兵士の年齢はたいてい10代後半から20代前半の若者であったが、彼らの検死解剖の結果、 ほぼ8割の若者の血管に既にアテローム状動脈硬化の徴候が現れていたのである。そして後年さらに研究が重ねられ、アテローム状動脈硬化の初期の徴候は、 2、3歳の幼児にさえ見られることが確認された。

血管壁にたい積した粥垢は、ゆっくりと20年から40年もかけて、徐々に大きくなっていく。その成分の大部分は脂肪で、それもほとんどがコレステ ロールである。大部分のアメリカ人は、50歳になるまでに、アテローム状動脈硬化がかなり進んだ状態になっている。いやはや、一体これは我々の避けがたい 運命なのだろうか?それとも、予防ができるのだろうか?あるいは、病気の進行を遅らせることができるのだろうか?

なぜ動脈壁が傷つき、そこが粥垢のたい積場になるのか、その仕組みはまだよく解明されていない。しかしこれまでに分かったことは、特定の危険因子が ある時に、より高い確率で病気が発生し、症状もより重くなるということである。

その危険因子とは、血中コレステロール値の高さ、血清中のHDLとLDLの比率、高血圧、糖尿病、喫煙、体を動かさない生活習慣、特定の性格や気 質、心臓発作と卒中の者がいる家系、などである。人にこれらの危険因子が多ければ多いほど、年齢に関係なく動脈硬化症の悲劇に襲われる確率が高くなる。血 清コレステロール値の高い低いに関わらず、HDL値が高い方が、心臓発作の危険性が低くなるようだ。

危険因子という概念は、マサチューセッツ州フラミンガムにある国立保健所の研究に端を発している。フラミンガムはボストン市郊外の工場都市で、人口 は約2万8千人、所得の分布状況と人種構成が、まさに平均的アメリカ社会の縮図のような街である。

1949年、フラミンガム在住の年齢30歳から59歳までの健康な男女約5千人が選ばれ、一年おきに入念な健康診断と各種の臨床検査を受けてもらう 追跡調査が開始された。その後年月がたって、選抜者のうちおよそ千人が死亡した。彼らの死亡原因の分析から得られたデータは、研究者らが『危険因子』説を 確立するさいに役立った。

アテローム状動脈硬化症との関わりがうかがえる因子の数は、あまりにも多いので、その中から最も重要な因子を決めることは難しい。が、意見は完全に 一致しないものの、大部分の研究者は、血中コレステロール値が高いことが最も危険な因子である、という点で一致している。特に遺伝子的にこの病気にかかり やすい人に、その傾向が強い。

血清コレステロール値は、食事の内容に大きく左右される。血漿と体の組織にあるコレステロールは、二つの所から供給されている。一つは私たちが食べ ている食べ物から、もう一つは、肝臓と小腸で作られるコレステロールである。合衆国の平均的な大人は、食事から一日平均600から800ミリグラムのコレ ステロールを摂取しているが、この量は世界の大部分の人々と比べて、ずっと多い。このコレステロールは、卵の黄身、乳製品の脂肪、肉といった動物性食品か らきたものである。これらの食べ物を食べれば食べるほど、コレステロールが体の中に入る。それに加えて、人体は毎日500から1000ミリグラムのコレス テロールを生産している。このコレステロールは、食べ物から摂取されるコレステロールとはほとんど関係なく作られている。

血漿中のコレステロール値を決めていると思われる物質が、二つある。それは、食事の中に含まれるコレステロールと飽和脂肪酸である。飽和脂肪酸は、 通常室温で固体である。飽和脂肪酸を多く含む食物は、バター、チーズ、クリーム、牛肉、豚肉、羊肉、チョコレートなどである。飽和脂肪酸の摂取は、血清コ レステロール値を上げる。一方、不飽和脂肪酸は、通常室温で液体である。不飽和脂肪酸は、コーン油、綿実油、サフラワー油といった植物性油に多く含まれて おり、不飽和脂肪酸の摂取は、血清コレステロール値を下げる。

アテローム状動脈硬化症が食事によって引き起こされることを証明する初めての実験が、1910年から1920年にかけてロシアの科学者ニコライ・ア ニチョフによって行われた。この実験では、脂肪とコレステロールを多く含む餌を与えられたウサギは、すぐにアテローム状動脈硬化症になった。ちなみにこの 時以来、動物実験でアテローム状動脈硬化症の状態を人為的に作りだすさいに、この高コレステロール食の飼育方法が採用されるようになった。

これと同じことを人で実験して確かめるのは、もちろん難しいというものだ。そこで、食事、コレステロール、心臓病と卒中、この三者の関連性を示唆す る実験結果が、それらの相関関係を立証するために有効になる。例えばフラミンガムでの大実験は、血中コレステロール値が240ミリグラムの男性は、同値が 200ミリグラム以下の男性よりも心臓発作の率が三倍高いことが示された。

世界各国の人口統計の調査結果からも、血中コレステロール値と心臓発作の発生率が相関関係にあることは疑いようがない。一般に、血清コレステロール 値の高さ、アテローム状動脈硬化症、乳製品と肉の消費量、この三者に関連があることは、全世界的にとてもはっきりしている。

牛乳には、1クォートにつき約35グラムの脂肪が含まれている。そのうち約60パーセントは、飽和脂肪酸である。仮に牛乳を一日1クォート飲むとす ると、それだけで、アメリカ心臓協会と、政府の食べ物と栄養と健康に関する特別委員会が定めた一人当りの一日の脂肪摂取量の3分の1を超えてしまう。それ だけの量を牛乳から取ってしまうと、脂肪分を含んだそのほかの食べ物を食べようにも残りの分量をすぐに超えてしまうので、選ぶ余地がほとんどなくなってし まう。加えて、牛乳中の脂肪分には飽和脂肪酸が多く含まれているので、牛乳を飲むだけで、飽和脂肪酸の安全とされる基準量をほとんど満たしてしまう。

食事をちょっと変更するだけで、心臓病による死亡率を下げることができる。それを端的に示す最も信頼のおける実験が、フィンランドの二つの大病院で 実施された。1959年から1965年まで、N病院ではコレステロールを下げる食事が、K病院では通常の病院の食事が、同じ患者に継続してそれぞれ配膳さ れた。そして1965年、N病院とK病院の食事が交替した。この実験では、通常の食事と異なる点が二つあった。それは、牛乳の代わりに、脱脂乳と大豆油の 乳化液を混合した『充填乳』が使われたこと、もう一つはバターと通常のマーガリンの代わりに、多価不飽和脂肪酸を多く含む『軟化』マーガリンが使われたこ とである。

この実験食は、患者のコレステロール値を平均20パーセント近く下げる効果をもたらした。さらに目を見張ったのは、この食事によって、男性患者の冠 動脈硬化症による死亡率が半分以下にまで下がったことである。同様の成果は、そのほかの実験においても示されてはいる。しかし、これほど大きな成果を得る のに最低限なすべき食事上の改善点を知る上で、このフィンランドの特別調査は非常に示唆的である。

アメリカの乳業界も、牛乳に含まれている脂肪が人体に及ぼす害を懸念している。それは、脱脂粉乳や低脂肪乳といった製品が大々的に量産されているこ とからも分かる。アイスクリームの代用として、『アイスミルク』なる商品さえ存在するくらいだ。

実験食のようなよくわきまえた食事を実行すれば、コレステロール値を下げ、心臓病による死亡率を下げることができる。例えば、血圧が正常値で喫煙習 慣にない男性がその食事を採り入れるだけで、百人のうち6人が心臓発作から免れられると予測されている。既に危険因子をもっている人ならば、効果はもっと 大きい。例えば、心臓肥大が既に認められる喫煙者の男性が、血中コレステロール値を下げる目的で考案された食事に変えると、百人のうち29人が心臓発作か ら免れられるという。

アテローム状動脈硬化症の予防に、小児科医も重要な役割を担うべきであるとの期待がかかっている。小児科医は、まず子どもの中から、50歳までに心 臓発作で倒れた経験をもつ親もしくは祖父母をもつ者を選びだし、彼らの脂肪の運搬と調節機能に障害がないかどうかを調べてはどうか、という案が国からださ れている。それには、まず家族の病歴が条件に該当する一歳未満の乳児の血液を採取し、コレステロール値とトリグリセド値を測定する。そのどちらかの値が高 い場合、さらに検査を行い、血液中の脂肪を運ぶ蛋白質の遺伝子に異常がないかどうかを調べる。異常が認められた場合、その種類に応じて食事上の改善点を処 方する。そのさい、薬物治療が必要になることもあるかもしれない。

脂肪運搬の先天異常の中で最も一般的なのが、リポ蛋白過剰症Ⅱ型である。この病気は、人口およそ二百人に一人の割合で発生する。この先天異常をかか える男性のおよそ5パーセントが、30歳になるまでに何らかの心臓病の徴候を示し、50歳までに約半数が、60歳までには85パーセントが発症する。この 病気には、コレステロールの摂取を厳しく制限した食事、すなわち卵、脂身肉、貝、そして乳製品を減らした食事が勧められる。脂肪蛋白の先天異常が見つかっ た乳児は、一歳前後からこのような食事を採り入れるべきである。

早い時期から牛乳を摂取すると、その人は生涯にわたってその影響に付きまとわれかねない。アテローム状動脈硬化症の前段階と見られる変化は、乳幼児 の冠動脈に既に現れていることが知られている。ある病理学者が、事故死した若者と子ども合わせて千五百人以上の心臓血管を調べたことがあった。彼らの死亡 原因は、交通事故、水の事故、銃の発砲もしくはその外傷などであり、病気が原因ではなかった。にもかかわらず、多数の者の心臓動脈に病気の徴候がでていた のである。

正常な血管をもつ子どもや若者がいる一方で、そうではない子どもや若者がいるのはなぜだろう?その理由を説明するとすれば、この両者をくっきりと分 け隔てる唯一の違いに目を向けねばならないだろう。それは、彼らの育児歴である。正常な血管をもつ子どもの大部分は母乳で育てられており、異常な血管をも つ子どもの大部分は、牛乳か牛乳が原料の人工乳で育てられていた。従って、育児を母乳でするか牛乳でするかの違いが、乳幼児の冠動脈血管の異常に関与した と、結論できるのである。

これまで見てきたように、食事とアテローム状動脈硬化症との関連を示す数多くの発見は、牛乳は人が飲むためのものではないという信念に、すべからく 光を当てている。哺乳類の中で、生涯にわたって乳を飲む習慣を敢行しているのは、人以外にない。そしてアテローム状動脈硬化症は、人以外の哺乳動物には見 られない病気である。あるとすれば、人の食事のように、脂肪分とコレステロールを多く含んだ餌を与えた時だけである。1977年2月、栄養と人の必要なも のに関する上院特別委員会が、『合衆国の食事目標』と題する報告書を発表した。この中で、アメリカ国民は脂肪摂取量を減らすべきであり、牛乳と乳製品の摂 取を減らすよう努力すべきであると国民に勧告された。これに対して、当然のことながら、全米乳業評議会をはじめ数多くの団体が一斉に非難の声を上げた。

1982年、援軍は意外な方向からやってきた。国立調査研究評議会が、報告書『食事、栄養、がん』を発表したのである。この報告書は、がんは食事で 予防できるということを初めて公に認めた画期的なものだった。その中で、現在平均的なアメリカ人の食事において40パーセントを占めている、脂肪から得ら れるカロリーの比率を、30パーセントまで削減すべきである、と勧告された。『疫学データと実験データを総合した結果、調査対象の全ての栄養素のうちとり わけ脂肪の摂取は、がんとの関連を示唆して』おり、大腸がん、乳がん、前立腺がんとの関係は特に濃厚である、という。

心臓病を予防する目的で考案された食事は、がんも予防できるかもしれない。こうした食事を、アメリカ心臓病学会は『慎重な食事』と呼んでいる。こ の食事法に保証書はないし、ましてや保証金の返還もないけれど、それを実行すれば心臓病とがんをともに予防できるのだとすれば、脂肪を減らすことはまさに 慎重なことでなないだろうか?

一日950ミリリットルの牛乳を飲めば、脂肪35グラムを摂取したことになる。この35グラムは、体重68キログラムの平均的アメリカ人男性が一日に摂取すべき 脂肪分の半分の量に相当する。脂肪分に割り当てられた量を、あなたはこんなもので埋め合わせてしまってよいのか?

さらに興味をそそられる新説がでてきた。適切な食べ物を小食することが寿命を伸ばすことが、明らかになってきたというのだ。1982年6月8日号の ニューヨーク・タイムズ誌は、『小食が百歳以上の長寿の秘訣』と題する記事を掲載した。執筆者ジェーン・ブロディ記者は、その説が有力となった研究につい て紹介している。それによれば、動物実験から、適切な栄養素を全部含んだ食事の量を、“正常な”体重を維持するのに必要なカロリーの3分の1に減らして摂 取すれば、より寿命が長くなることが示された。このような低栄養食は、中年になってから始めても効果は期待できそうである。これまでのところ、その効果は 動物実験でしか確認されていないが、これは人にも当てはまると考えてよいだろう。

脂肪の摂取量を減らそう。カロリー摂取量を減らそう。そうすれば、予想をはるかに越えて、あなたは末長く食べ続けられるかもしれない。

赤ん坊は、生後1年間は母乳か、さもなくば限りなく母乳に近い人工乳で育てられるべきである。この目的に添った人工乳は、数多く出回っている。そし て1歳から2歳までの間に正常に離乳を果たしたら、もう牛乳を飲んではいけない。

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