カルシウム・コンプレックス

原書:フランク・オスキー著『Don't Drink Your Milk』より第6章『The Calcium Scare』

『でも先生、もしも牛乳を飲むのをやめたら、私の骨と歯はどうなるのでしょう?』

牛乳をやめるよう勧めた患者さんから最もよくきかれる質問が、これ、もしくはこれと似た質問である。たいていのアメリカ人は、牛乳にはカルシウムが多く含まれていることを知っている。また、骨と歯を丈夫にするためには、カルシウムをもっと摂らなければならないことも知っている。こうしたことを皆よく知っているのは、乳製品業界かそのように宣伝してきたからにほかならない。

また、たいていのアメリカ人は、トマス・E・デウェイが第34代アメリカ合衆国大統領になる“はず”だったことを知っている(選挙当日まではなるはずだったが、実際にはならなかった)。

たいていのアメリカ人が知らないこと、そして知ろうともしないことは、世界中の大部分の人々が、われわれが必要だと考えているカルシウム摂取量の半分もカルシウムを摂っていないにもかかわらず、程度の差こそあれ、彼らが強くて丈夫な骨と歯をもっている、ということである。

牛乳には、1クォートにつき約1200ミリグラムのカルシウムが含まれている。牛乳は確かにカルシウム含有率が高い。国立科学アカデミーの食べ物と栄養委員会が推奨する一日のカルシウム摂取量は、成人で約800ミリグラムとなっている。しかし、世界各国の有名機関の委員会が推薦する値は、同じ問題を検討したはずなのに、なぜか異なっている。例えば、イギリスとでカナダで決められた一日のカルシウム摂取量は500ミリグラム、WHOの食料農業部門でも一日400から500ミリグラムとなっている。

どうしてこのように意見が違うのだろう?カルシウムの必要量を決定することは、実はとても複雑で難しい仕事なのである。食事の中に含まれるカルシウムの量は、ただ単に体内に入るカルシウムの量でしかない。カルシウムが消化管から吸収されるさいには、そのほかの食べ物が相互に作用し合い、カルシウムの吸収率を左右している。例えば、食事中に含まれる燐、食物繊維、蛋白質などの量が問題なのであり、それに加えて、ビタミンDと色々な種類のホルモンが、カルシウムの吸収率を高めるのに重要な働きをしている。

食事から摂取するカルシウムの量と、血液に吸収され最終的に体内で骨や歯に蓄えられるカルシウムの量とは関係がないことは、母乳で育てられた乳児と牛乳で育てられた乳児を比較した時に、非常にはっきりする。先に述べたように、牛乳には1クォートにつき約1200ミリグラムのカルシウムが含まれている。人乳には、1クォートにつき約300ミリグラムしかカルシウムが含まれていない。これだけ差があるにもかかわらず、母乳で育てられた乳児の方が、『実際には、吸収されるカルシウムの量は多い』のである。

その理由は、牛乳に燐が多く含まれていることと無関係でない。カルシウムの燐に対する割合は、だいたい2対1よりも大きくなる。燐は小腸でカルシウムと結び付きやすく、カルシウムの吸収を妨げる。多くの栄養学者が主張しているのは、カルシウム源にすべき食べ物は主に、カルシウム対燐の比率が1対2か、それよりもカルシウムの割合が多いものが適しているということだ。

さて、大人のカルシウム問題に話を戻そう。これまでに、世界各国の人々の骨密度、つまり骨の強さを比較した調査研究が実施され、カルシウムの摂取量が合衆国の基準値とほぼ同量の国の人々と、その半分にも満たない主にアフリカ諸国の人々が比較された。その結果、カルシウムの摂取量が少ない国の人々に、骨の弱さを示す証拠は見当たらなかった。

調査が進むにつれ、健康を維持するために人が必要とするカルシウムの量はいくらであればよいのか、ほとんど分からない、ということが次第にはっきりしてきた。カルシウムの量が多すぎても少なすぎても害があるだろう、とは分かっても、ではその少なすぎるとは一体どのくらいの量なのかは、謎である。アフリカ諸国の黒人をはじめ、白人よりもカルシウムの摂取量が少ない人々は、概して骨が軟化(骨粗しょう症)しにくく、事実彼らの骨密度は白人よりも高い。このことは、南アフリカ医療調査研究所のアレキサンダー・ウォーカー博士をして次のように言わしめた。『人がカルシウム不足になるという確たる証拠は、どこにも見当たりません。』

この見解は極端だとしても、WHOの専門家研究班が下した結論も、一日300ミリグラム以下のカルシウムの摂取量が人体に有害であるという確証はない、というものである。一日300ミリグラムのカルシウムといえば、牛乳コップ一杯に含まれる量と同じである。

これよりも控えめであるが、それでも一般常識とは正反対の結論が、アメリカ小児科学アカデミーの栄養部会から発表された。『カルシウムの必要量だけとってみても、公的私的双方の研究機関から発表されている、子どもと青少年が一日に飲むべき牛乳の規定量(子どもは一日コップ3杯以上、青少年は一日コップ4杯以上)は、正常な骨と歯そして全身の発達に必要とされる量を、超えているかもしれない』

人体が、食事から得られるカルシウム量の変化に適応できることは、はっきりしている。たとえ摂取するカルシウムの量が少なくなったとしても、必要量を満たすようにより多くの量が吸収される。

平均的アメリカ人は、牛乳から一日に807ミリグラムのカルシウムを摂取している。平均的スペイン人は、一日平均308ミリグラム、ブラジル人は250ミリグラム、台湾人は13ミリグラム、ガーナ人は8ミリグラム、摂取している。ここにあげたアメリカ人以外の人々は、歯がないわけでも、たび重なる骨折でベッドに固定されたまま寝たきりになっているわけでもない。

だれもがいくらかのカルシウムを必要としている。幸いにも、カルシウムを豊富に含む食べ物は色々ある。例えば、いわし3オンス(約85グラム)、スイス・チーズ1オンス(約28グラム)、調理済みのコラード1カップ、かぶ1カップ、小麦粉4オンス(約113グラム)を取ると、250ミリグラム以上のカルシウム摂取量になる。200ミリグラム以上摂取しようと思えば、かき1カップ、大黄1カップ、カッテージチーズ1カップ、いわし4オンス一皿分を食べればよい。さらに、金時豆、ブロッコリー、大豆、アーモンド、色々な魚、カッサバなどが、良いカルシウム源である。

『でも先生、もしも牛乳を飲むのをやめたら、私の骨と歯はどうなるのでしょう?』
どうもならない。起きると恐れているようなことなど何も、とにもかくにも・・・。

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