“牛に気をつけろ”

原書:フランク・オスキー著『Don't Drink Your Milk』第8章『Beware of the Cow』

下痢と腹痛、消化管からの出血、鉄欠乏性貧血、皮膚湿疹、アテローム状動脈硬化症、にきび。これらは牛乳の摂取と関わりの深い病気である。慢性的な耳の炎症も、そう。気管支炎も、そう。まだあるかって?まだ、ある。白血病、多肢硬化症、リウマチ性関節炎、ちょとした虫歯も、牛乳が犯人かもしれない。

これまでは既製事実についてお伝えしてきたが、この章では、身震いするような仮説の数々を紹介しよう。身震いするのは、あなたがまだ牛乳を飲んでいれば、の話だが・・・。

高名なイギリスの医学誌ランセット誌が、近頃『牛に気をつけろ』と題した社説を発表した。記事はこの一文から始まる。『牛肉食が大腸がんに関係していることを示す証拠とともに、またもや牛から、新たなる脅威の便りがやってきた。しかし今回は大人ではなく、子どもにである』

この社説では、非加熱低温殺菌牛乳をチンパンジーの赤ちゃんに与えた動物実験を紹介していた。そのチンパンジー6匹のうち2匹が、白血病で死んだ。白血病は、これまでチンパンジーには見られなかった病気である。が、ここで断っておかねばならない。実は、チンパンジーが飲んだ牛乳は普通の牛乳と違っていた。その牛乳は、あるウイルス感染症にかかった牛の乳で、ウシC型ウイルスと呼ばれるそのウイルスは、牛に自然に伝染し白血病を引き起こすことが知られていた。

このウイルスにより白血病になった牛が最初に発見されたのは、20世紀が始まったばかりのヨーロッパであった。病気はあっという間に全世界的に流行し、牛の全品種が感染した。この伝染病は牛の病気であり、特に遺伝子的に抵抗力の弱い牛が最も感染しやすく、白血病を引き起こすと言われている。このウイルスに羊が感染したことはあるが、これほど人に近い種が感染したことは今までになかった。

チンパンジーの動物実験では、6匹の赤ちゃんチンパンジーに、ウイルス感染した牛から搾られた牛乳が誕生直後から与えられ、別の6匹の赤ちゃんチンパンジーには、感染していない牛から搾られた牛乳が与えられた。感染牛乳を飲んだ6匹のうち2匹が、6週間病気で苦しんだ末、生後34週目と後生後35週目にそれぞれ死んだ。死因は2匹とも牛白血病で、珍しい型の伝染性肺炎を併発していた。

チンパンジーが感染する伝染病のほとんどは、人に伝染してもおかしくない。今までに、人がウシC型ウイルスがに感染したという報告はない。が、その可能性はある。だからランセットの記事、『牛に気をつけろ』というわけである。

ペンシルバニア獣医大学のファラー博士、ケニオン博士、クプタ博士は、サイエンス誌に掲載された研究報告の中でもっと厳しい見方をしている。彼らの行った実験は次のようなものだった。まず、牛乳は自然に牛白血病ウイルスに感染することが知られている。そこで、乳牛24頭の乳もしくはその生体細胞を羊の体内に入れ、その後羊がウイルスに感染していないか調べた。その結果、この生体検査の方法によって、乳牛24頭のうちの17頭から採取された乳にウイルスの存在が確認された。このウイルスは、牛乳の製造工程の低温殺菌処理で死滅すると考えられているのだが、にもかかわらず彼らの結論はこうだ。『これまでの疫学調査では、人の白血病と牛の白血病との関連は示されていないが、膨大な症例を集めた最新の調査では、統計的に人の急性リンパ白血病が激増している地域では、牛白血病ならびに牛白血病ウイルス感染の発生率もかなり高くなっていた。明らかに疑いは濃厚である。牛白血病ウイルスが人の伝染病になる恐れがないかどうか、最も精巧なウイルス学的、疫学的技術を総動員して徹底的に調査研究されてしかるべきであろう。』これは彼らの意見である、私のではなく。

多肢硬化症についてはどうだろう?多肢硬化症というのは、神経が冒され、口の動き、視力、筋力に支障をきたす無残な進行性の病気である。患者は、最後には肢体が不自由になり、動けなくなる。実はこの病気の発生分布には、ある奇妙な地理的な特徴があるのだが、それについてこれまで十分に納得いく説明がなされたことがない。合衆国のような面積の広い国では、多肢硬化症は、より寒い地方に集中している。世界各国の調査報告を見ても、多肢硬化症が赤道付近で発生したという報告はめったにない。多くの研究者が、多肢硬化症はウイルス感染症で、免疫力が低下した人が襲われる病気である、との見方をしている。

奇妙な地理的分布をしているこの多肢硬化症を解明する糸口をつかもうと、ミシガン大学のバーナード・アグラノフ博士とデビット・ゴールドバーグ博士の二人の科学者は、1974年、病気の地理的条件とそのほかの条件との関係を探る調査に着手した。

二人は、国内の多肢硬化症で亡くなった2万6千人の死亡分布図を作ってみた。アラバマ、ジョージア、テネシーといった州での死亡件数は、人口比からいって割り振られるべき数の約半数にとどまった。多肢硬化症と非常に強い関連性を示すことがらがある一方で、全く無関係のことがらもあった。例えば、所得水準、教育、医師の数、病院数、ベット数、診療所数などは、病気との関連性が全く認められなかったのに対して、罹患率と非常に明白な関連性を示したのが、一人当りの牛乳摂取量であった。

アグラノフ博士とゴールドバーグ博士は興味をかき立てられ、次に諸外国で同様の関係が見られないか調査した。するとまたもや、21ヶ国で多肢硬化症と重大な関連を示した唯一のものが、国民一人当りの平均牛乳摂取量であった。

しかしいまだに分からないのは、なぜ牛乳の摂取が多肢硬化症の発生を促すのだろうか?博士らの推論は、牛乳の中に含まれている脂肪分が、それを大量に飲んだ人の神経系に何らかの作用をするのか、あるいは未確認の毒性物質か病原体が病気を引き起こしている、というものである。この仮説を立証するためにはさらに詳しく研究をする必要があるとしたうえで、研究報告は以下の一文で締めくくられている。それは、この章の冒頭で引用したランセット誌の社説と驚くほどよく似ている。『牛乳は、乳児が母乳の代わりに飲むのには不適当である、もしくは乳児期以後摂取するのは危険かもしれない。あるいは、その両方かもしれない』

テキサス州ヒューストンのバイラー医科大学の神経学者らが、別のやはりまだ解明されていない神経系疾病の一因として牛乳の摂取を指摘したのは、偶然というにはできすぎている。問題の病気は、アミオトロフィック側面硬化症といい、有名な運動選手ルー・ゲーリックがかかった病気として知られている。調査は、アミオトロフィック側面硬化症の患者25人を対象に以下の方法で行われた。まず、患者個人に関わる数多くのことがらを分析し、それから、性別、年齢、人種、経済的境遇、教育水準を同じくする別の25名の健康な人と、患者の個人歴とを比較した。すると、患者と健康な人とを分け隔てることがらに、より頻繁に鉛と水銀に接触すること、より多くスポーツをすること、そしてより多く牛乳を飲むことが浮かび上がってきた。そのほかに、食べ物の違いもあった。

アラバマ州モントゴメリーの小児科開業医、J・ダン・バゲット博士は、子どもたちの食事内容を非常に注意深く観察するうちに、牛乳の摂取が小児のリウマチ性関節炎に関与していると確信するに至った。バゲット博士の手紙を読んでみよう。

『私の経験をお話します。私はこれまで、早期リウマチ性関節炎の患者、もしくはその疑いのある患者を何例も診察してきました。中には、両親や私の目にも抜き差しならないほど症状が進行していることがはっきり分かる子も何人かおりましたが、この8年間一人の例外もなく、彼らは元の健康な状態に回復しました。ただ単に彼らの食事から、全ての牛乳および牛乳製品を跡形なく除くことによって、です。今私が診ているある女の子は、ここに来る前さる高名なリウマチ専門医師に真性リウマチ性関節炎と診断され治療を受けていましたが、ここでは牛乳を除いた食事療法をやっておりまして、症状は劇的に改善しています』

バゲット医師に限らずこれと似たような臨床例は、各小児科医がそれぞれ体験してきている。関節の痛みと腫れが特徴であるリウマチ性関節炎も、牛乳アレルギーの一種かもしれない。アレルギーとは、微細で謎めいた多くの症状があるものだ。

ワシントン州タコマの研究班が、また別の奇妙で謎めいた観察を報告している。アレキサンダー・シャウス氏と同僚の研究者らは、牛乳をガブガブ飲む習慣は反社会的な行動形態と明らかに関係があることを発見した。研究班は、犯罪者の若者の食事を、同等の境遇の若者の食事と比較調査した。すると、非行少年らは対照少年らよりもほぼ10倍多く牛乳を飲んでいた。少年犯罪者は、果物、ナッツ、野菜の摂取量が少なかった。この調査を継続中のシャウス氏によれば、牛乳の大量摂取が何らかの“蛋白質酔い”のような状態を引き起こして、牛乳を飲んだ少年らを犯罪に駆り立てるのか、ただ単に彼らにバランスの悪い食事が共通しているだけなのか不明であるという。『どんな災いが人の心(胃)に潜んでいるか、分かるものですか。』とは、シャウス氏の言である。

牛乳が虫歯を作る、これぞ本当の皮肉というものだ。母親が子どもに牛乳を飲ませるのは、たいてい歯と骨を丈夫にすることを願ってのことであるが、ある状況下では、実際は牛乳を飲むことが歯をダメにすると、ペンシルバニア大学の歯学専門医、フランシス・カスタノ博士は考えている。母親が子どもを寝かしつける時に哺乳瓶をくわえさせる、ということはよくある。赤ちゃんは満足げに乳首を吸いながら、眠りに落ちる。災厄はそれからである。赤ちゃんが乳を吸うのをやめると、牛乳が歯を蝕ばみ始めるのである。

睡眠中、だ液の分泌は著しく減少する。口の中に残った牛乳は、消化されず、また洗い流されず、歯の表面にくっついたまま酸化する。この酸化した牛乳が、口腔内にいる細菌にとってまたとない栄養分なのだ。繁殖した細菌は歯垢を作り、歯の表面のエナメル質を虫歯にしてしまう。

カスタノ博士によれば、この就寝時の習慣の末、子どもに虫歯ができるのがあまりにも速いので、両親の言葉を借りれば、それはまるで“溶け去って”しまうようだ、という。こうした話は、子どもが生後12ヶ月をすぎても、牛乳でおやすみなさいの習慣を続けている場合、笑い話では済まされなくなる。

これを防ぐには母乳で育児をするべきであると、カスタノ博士は強く主張している。もしも就寝時にどうしても哺乳瓶がいるというのなら、その時は水をいれておくとよい。

哺乳瓶をグビグビ吸ったとしても、中に入っているのは水だから、水がこの章でご登場いただいた病気どもを、さっと“溶かし去って”しまうことだろう。

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