“牛乳にはだれにとっても何かがある”

原書:フランク・オスキー著『Don't Drink Your Milk』第9章『Milk has Something for Everybody』

“牛乳育ちは素敵な恋人”、“だれもが牛乳を必要としています”、“牛乳は飲む価値大なり”、“毎日新しい自分に出会うため-牛乳を飲みましょう”、“牛乳は完全食品です”。

ここにあげたのは、牛乳業界の宣伝文句である。この中の一つや二つは、あなたもきっと目にしたことがあるだろう。しかし、1974年4月号のニューヨーク・タイムズ誌に掲載された記事『連邦通商委員会、牛乳広告を詐欺ととるか?』の見出しを、あなたは目にしただろうか?目にしたとしても、ほとんどの人は記事を読まなかっただろうし、また仮に読んだとしても、その内容を信じられなかったにちがいない。

1974年、連邦通商委員会はついに乳製品業界の背をとらえた。同委員会(以下FTC)は各方面からの声を受けて、カリフォルニア州牛乳製造者広報局とその広告代理店カニンガムとウォルシュを告訴した。その告訴状の中でFTCは、販売促進目的の乳製品業界の宣伝広告は、内容的に虚偽の疑いがあり、国民を欺き、誤解を与えるものである、と訴えた。

乳製品業界に激震が走った。しかし結局のところ、業界は“だれもが牛乳を必要としています”を宣伝し続ける以外に何ができただろうか?一般大衆は、このうたい文句をもう何年も聞かされ続けている。今回FTCは、この宣伝文句を告訴の対象にしなかった。というより、できなかったのである。同委員会はそれまでに、牛乳は人に必要でなく、事実牛乳は人体に有害であることを証明する科学的根拠を、十分すぎるくらい集めてはいた。告訴状では、私がこの本で紹介している事実の多くが指摘されていた。例えば、ラクターゼ欠乏症の人口の割合が高いこと、子どもの牛乳アレルギーが珍しくないこと、牛乳の摂取によって心臓病の危険性が高くなること、などである。

FTCの告訴は、乳業界が伸び悩んでいた牛乳の売上に歯止めをかけるため、大掛かりな販売促進運動を展開している最中の出来事だった。『カリフォルニア・オレゴン・ワシントン乳業』は、ラジオ、テレビ、新聞を使って販売促進電撃作戦を敢行。その宣伝広告“だれもが牛乳を必要としています”には、マーク・スピッツ、ヴァイダ・ブルー、レイ・ボルガー、アビゲイル・ヴァン・ブーレン、フローレンス・ヘンダーソンといった各界の有名人が起用されていた。

アビゲイル・ヴァン・ブーレンは、牛乳を飲んでいるおかげで風邪ひとつひかない、と言い、レイ・ボルガーは、自分がダンサーとして長く活躍できるのも、牛乳が関節炎を予防してくれるおかげである、と言っていた。

だが、どうしてこの有名人たちが間違えなどするだろう?“アビーに相談”に投書するから、賢人会議で相談にのってほしいものだ。もしも彼らが、何を食べるのが正しいか本当に知らなかったのなら、ヴァイダ・ブルーは今季20勝もできなかっただろうし、マーク・スピッツはオリンピックで、メダルをあれほど大量に獲得できなかっただろう。

それは人目を引く広告ではあったが、正しくなかった。今回、乳業界の対応は素早かった。連邦通商委員会が告訴状の提出を表明する前に、その宣伝文句“だれもが牛乳を必要としています”は、“牛乳にはだれにとっても何かがあります”にさっとすり替えられてしまった。これには、だれも文句はいえない。

もっとも、その“何か”とは、下痢かもしれないし、鉄欠乏性貧血、はたまた心臓発作かもしれない。

広告にかかる費用は、最終的には消費者が支払う牛乳代金の中に含まれる。生産農家もお金を支払う。消費者もお金を支払う。実際、酪農家はこうした積極的な宣伝広告にかかる費用をまかなうため、自ら徴収金を支払っている。昨年ニューヨーク州酪農組合は、牛乳の売上を伸ばすため徴収金を年間総額5百万ドルに引き上げることを、投票の結果採択した。組合全体で所有する乳牛は百万頭以上、この乳牛から年間6万7950トンの生乳が生産されている。

ニューヨーク州の住民がかつてほど牛乳を飲まなくなっていることを、酪農家は十分承知している。25年前、ニューヨーク州民は一日平均470ミリリットルの牛乳を飲んでいた。現在ニューヨーク州民が一日に飲む牛乳の量は、平均310ミリリットル強である。この変化を一人当りに換算すると、年間28リットル、州全体では年間14800リットル以上の消費の落ち込みに相当する。

アメリカ酪農協会が酪農家に有利な条件を提示したので、酪農家は自発的に徴収金を支払うことにした。同協会の試算では、各農家から15セントずつ徴収しそれを販売地域の広告費用に充てると、1ドル68セントの収益金が還元されるという。次回どこからか牛乳を賛美する調子のよいコマーシャルが流れてきたら、それは“公共広告”ではないことを覚えておこう。

今回連邦通商委員会が起こした行動は、別の意味で記念すべき出来事だった。従来連邦政府と牛乳業界は、一致協力して牛乳の売上促進を図ってきた。両者のこうした協力体勢を示す良き見本が、農務省が発行している『家庭の食事における牛乳』と題する小冊子に結実している。主婦向けに作られたこの案内冊子は、この一文から始まる。『牛乳は、毎日家族全員にとって必要な基本的な食品です』それゆえ、連邦通商委員会の提訴に牛乳業界が衝撃を受けたのも、全くムリからぬことである。

ところで、この小冊子『家庭の食事における牛乳』の発行元は、国の公官報印刷所である。ここはもちろん、我々の税金で運営されている。この冊子は先頃、家庭と菜園官報57の『牛乳をしっかり摂取する』と題する出版物に変更されたが、その中でもやはり、アメリカ国民に牛乳を飲むことが奨励されている。

全米乳業評議会は、愚かにも牛乳の価値に疑問を投げかける非国民を見張る活動もしている。この団体は、理事60人によって運営されており、理事に名を連ねているのは、生乳生産者、生乳加工業者、牛乳販売店、乳業関連用品と機材設備等の製造業者と卸売り業者の代表者である。本部事務局はシカゴにあるが、新聞切り抜き配信を通じて国内のどこからでも、いかなるハムレットのごとき懐疑分子を見逃すまいと追跡に余念がない。

これまでも、私が個人的に牛乳に異議を唱えその記事が地方の新聞や雑誌に掲載されるたびに、それがボルティモアであろうと、フィラデルフィア、ダラス、シラキュース、ランカスター、ペンシルバニア、どこであろうとも、その記事の切り抜きがシカゴにある全米乳業評議会の本部にすぐさま報告された。洞窟の中で叫べばどうなるか、分かろうというものだ。もしもそんなことをすれば、私の意見を非難する手紙が協会から私の元へ届き、私の意見を掲載した新聞紙上には、記事掲載を非難し牛乳の美点を擁護する協会からの長々とした手紙が掲載されるのである。

一個人が企業、それも政府から手厚く守られている大企業と戦うのは、難しい。しかし幸いにも、科学的な事実が次第に判明しつつある。牛乳業界は相変わらず、牛乳を完全なものだと擁護しながら、その裏で中身を調合しているが。

牛乳に込められたアメリカ人の信仰心と戦うことがいかに困難か、エレン・マッケンジー博士がうまく表現している。小児科医であると同時に精神科医でもあるマッケンジー博士の記事、『牛乳貧血の心理的要因』を読んでみよう。

『“だれもが牛乳を必要としています”、目下テレビコマーシャルやポスターからこの宣伝文句が、クリスマス・キャロルのごとく流されている。牛乳、このまだ歯のない子牛のための液体の蛋白質は、“自然で、最も完全に近い食べ物である”と喧伝されてきたので、食事療法に採用するのにふさわしい食品だと考えている医者さえ存在する。完全で、ホモ化され、低温殺菌され、瓶詰めされた牛乳(最も細菌汚染がひどく、アレルギーを引き起こし、製品化された人工乳は値段が割高)の魔法は、とてつもなく巨大な力をもっている。

人々は自らの経験も忘れ、医師からアレルギーや呼吸器系疾病や貧血について注意されたことも忘れ、牛乳をまた飲み始める。いつでも金がものをいう。地方局のテレビ番組ディレクターは、番組の中で牛乳貧血についてコメントすることができない。なぜなら、乳業の大企業がスポンサーについているからである』

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