かぶきの目

藤の精
 私は、毎日拙宅の隣にある公園を散策するのを日課にしているが、その公園中央にある藤が今を盛りと花房垂れている。その藤棚の下のベンチに座すれば皐月の風が頬をそっと撫でる・・・



 藤と言えば、先年松竹座に舞踊「藤娘」を観賞したことを思い出す。
近江大津あたりの琵琶湖畔に、根を張った松の古木に絡みついた藤が見事に花房をつけており、太陽の光も藤の花に遮られ薄ぼんやりとした木陰に可憐な娘が黒の塗り笠を被り、藤の枝を手に誠に大津絵から抜け出た藤のような・・・

 男の心が憎いのは ほかの女子に神かけて 会わずと三井のかねごとも堅い誓いの石山に 見は空蝉の唐崎や 待夜をよそに比良の雪〜〜♪

 何とも艶かしく踊る鴈治郎の大津絵から抜けでた様な舞踊は忘れることは出来ない。

この時期になると玄関に大津絵を飾るのが我が家の習慣になっている。
 (5月掲載分)
芦屋道満大内鑑(葛の葉)
 私達子供の頃は一番の楽しみといえば、大きな広場に来る木下サーカスを見に行く事でした。何も分からないまま芸人さんが宙づりしながら障子に筆で難しい文字を右手、左手、そして口にくわえてと上手に書きながら曲芸をいていたのを覚えています。 ちなみに木下サーカスは岡山が本部です。

 夢枕獏の小説やテレビ、映画、などで今ブームの陰陽師、安倍清明の出生の秘密に絡めた、芦屋道満と保名の秘伝書をめぐるお家騒動の内の葛の葉を、中村福助が早変わり、曲書き、宙のりをたっぷりと再現して見せます。

 第一場 阿倍野機屋の場

 陰陽師安倍保名と葛の葉のあいだに男の子が生まれる。腕白童子が昼寝をしている時を見届けて母葛の葉(福助)は織り掛けの機を織り始める。

 そこへ信田庄司(幸右衛門)と妻の棚(芝喜松)は葛の葉姫(福助)を伴って保名を尋ねてくる。
姫が恋焦がれている保名に嫁入りさせようとやって来たのですよ。庄司が案内を請うたところ窓から顔を出した女性が姫と瓜二つ・・・あらまぁ〜

 やがて保名(翫雀)が帰ってくる、庄司は葛の葉姫を差し出し嫁入りをお願いする。驚いた保名、見れば姫のなりをした女房葛の葉・・・うん??  でも?機を織る音が絶えない・・・?では・・目の前にいる姫は?・・・

 保名は庄司にからかわないでおくれ、六年前の事で不義理は詫びるからと・・・
保名の師、加茂保憲のお家騒動に養女榊の前が殺された、保名は榊に恋をしていた為気が狂い信田の森で岩倉治郎に狼藉をされ自害しようとしたところを榊の妹である葛の葉に助けられた事を・・・何時しか保名は葛の葉に心を寄せ合った事を・・・そして子供をもうけた?・・・うん?


 庄司と姫を待たせ・・・
保名は家へ入ると女房葛の葉・・・居る?
 葛の葉に庄司夫妻が来るというと嬉しがって普段と変わらない?・・・そして子供を抱いて身支度してくると奥くに入って行く。

第二場 機屋奥座敷の場

 葛の葉は衣装を改めて奥から出て来ると我が子を抱き上げて庄司に伝えて下さいと語る・・葛の葉・実は信田の森に住む白狐の化身だと・・・

 六年前この白狐は悪太郎に捕らえられ命を奪われそうになっていた所を保名に助けられた事があった。
 その保名を今度は葛の葉になって介抱し自害を思い止まらせた。やがて二人は慕いあい、畜生であっても情をつうじて童を生み楽しい日々を過ごして来ましたが・・ 
 本当の葛の葉が来るというのでは恩が仇になると・・・

 纏わりつく童をあやしながら・・・

ここからがクライマックス


 子別れの情愛・愁嘆の表現・形見の曲書き・裏書き・口書き・左書きなどなどのケレン・・・

 恋しくば尋ねきてみよ 和泉なる 信田の森の恨み 葛の葉

 保名は子供までなした仲ではないか、、、離しはしないと取り付くが葛の葉は辛さを振り切り藪の中へ消えて行く。
 保名は子供を背負って信田の森へ後を追って・・・

第三場 信田の森道行の場

 ここに哀れをとどめしは〜〜〜
   我がすみなれし一叢の〜〜〜

身を切られるよりつらい、夫と子との別れ・・・

 しのぶ身にさわりはここの人里かしこ〜〜〜

 あのいたいけを見るにつけ あとにまします父母に預けおいたる幼子の 乳房尋ねてこそ嘆かん 不憫やと・・・ 
 
 必ず必ず別るるとも母はそなたの影身に添い行く末永ごう守るぞや〜

 すごいすごい宙乗りである、成駒屋〜〜飛ぶが如しに・・・
心は千千に乱れる葛の葉であった。

 歌舞伎を見た事のない人は一度是非見て頂きたいですね。
伽羅先代萩
 有名な伊達騒動を基にした歌舞伎である。

 御殿の場
鶴千代君を守る乳人政岡(鴈治郎)が、茶道具で「飯炊き」をして毒殺を防ぐ大きな見せ場から舞台は始まる。

 次いで鶴千代の身代わりになった我が子千松が、栄御前(秀太郎)が持参した毒饅頭を食したと弾正の妹八汐(田の助)に懐剣で命を奪われるも、涙も見せない気丈な母親・・・
 我が子と鶴千代を取り替えお家を継がそうとしたと勘違いした栄御前は、政岡に悪の連判状を与える。

 人々が去ったあと、我が子千松の屍を抱きしめ泣き崩れる政岡、ここら辺りの細かい心理描写は観る人の心を奪う、女形鴈治郎の和事の真髄を観た思いがする。

 一転して床下
大ぜりで床下が現れると男之助(我當)が、鼠を踏まえて現れる。
 ここから我當の豪快な荒事が舞台を一変さす。

 このねずみ身のこなしが軽くすぐに逃げ出し花道のスッポンに消える・・と煙の中から連判状を咥え印を結んでせり上がってくる・・実悪仁木弾正である。

この役を、仁左衛門が貫禄と憎らしいほど冷徹さで演じ花道を去っていく、さすが仁左衛門と唸らせる。
六歌仙容彩
 三津五郎襲名公演より

三津五郎独壇場の舞踊「六歌仙容彩」である。
 平安期の代表歌人僧正遍照・文屋康秀・在原業平・喜撰法師・大伴黒主・と小野小町を六歌仙と言う。
 これを小野小町を除く五役を三津五郎一人で舞うという、何とも贅沢な変化舞踊を披露して見せる。

 最初は僧正遍照で、恋しい小町を訪れ口説くも小町に振られとぼとぼと帰るという役どころから。
 次ぎは色好みの文屋康秀が官女と戯れる洒落っ気たっぷりの踊りを三津五郎が古典舞踊屈指の難役と言われているこの踊りを軽やかに舞う。
 続く業平では菊之助の小町が平安絵巻から抜け出たような美しさで三津五郎業平と舞う。

 そして、喜撰法師では三津五郎チョボクレ坊主で滑稽なワリミを演じたりする、相手役のお梶に菊五郎が茶目っ気たっぷりに踊り舞台を盛り上げます。
 最後の黒主では、一転して悪役に変化するも小町に正体を見破られ豪快な見得をきって幕となります。
 先代三津五郎の渋い演技のイメージから新三津五郎はどのようなイメージをみせるのか興味津津である。
 
義賢最期
 義賢最期は仁左衛門の十八番である、今回は私が観た橋之助の義賢で再現しましょう。
 
 義賢は平家に滅ぼされた源義朝の弟であり、勇壮な木曽義仲の父親でもある。

 義賢(橋之助)は今は平家方に降伏し病を理由に蟄居している。葵御前(秀調)は後妻であり、今身篭っていて義理ある先妻の子待宵姫(愛之助)を気使っている。舞台はここから始まる。

 近江の国小野原の百姓九郎助は娘小万(孝太郎)と孫太郎吉を連れて義賢の館へ・・小万の婿が家出をしてこちらへ奴として奉公しているとの噂を聞き迎えに来たという。
 応対に出た葵御前は奴はいま用事で出かけているが帰ってきたら暇をやろうと約束する。
帰って来た奴折平(染五郎)に待宵姫は恋しい人にそれはつれないと泣き伏す。

 義賢が奥の間から出て来て折平に烏丸の館に居る源氏の多田蔵人行綱に密書を届けさすが、折平その館は無かったと密書を返す、・・・ところが密書は封を切られていた、義賢が詮議すると・・何と折平・実は多田蔵人行綱本人であった。

 本心を知った二人・源氏の白旗のもと家名の実を咲かそうと誓いあう。

 そこへ清盛から上使、義賢に潔白なら義朝の首を足蹴にしろと迫る。もはやここまでと義賢は行綱に待宵姫と一緒に落ち延びさせ、葵御前には無事出産したらその子には必ず旗をあげさせよと命じる。

 ここからがクライマックス

 新野次郎宗政(男寅)を大将に平家が攻めてくる、矢走の兵内(錦吾)に一旦渡った白旗を取り戻し小万に託す・・・
 もうここまでと義賢は大立ち回りをする・・戸板を二枚立てた上に一枚渡しそこに立って見得をする「戸板倒し」だ。
 そして組込んで来る新野を巻き込んで、三段の上で両手を広げ蝙蝠の見得をしそのまま身体を真っ直ぐに三段の上に倒れ込む「仏倒れ」。
 物凄い迫力である、橋之助の大熱演で幕となる。
三人形
 江戸は吉原 桜が満開の中・・・

 伊達が生き甲斐 丹前姿の白塗り(勘九郎)が腰巻羽織に袴、紫頭巾を頭にのせ派手な丹前振りをする。
 お供をするのが奴(八十助/現三津五郎)・・・
そこへ、傾城(福助)が侍の廓話に触発されて大尽舞を見せる。

 今度は奴が拳の踊り、奴独特の足拍子も披露する。さすが踊りの名門の八十助/現三津五郎だ。

 廓へ早く行きたくなった三人、侍・傾城・奴が陽気に「さんさ時雨」を踊って幕となる。

 浄瑠璃常磐津一色太夫(人間国宝)が花を添える。
おちくぼ物語
 落窪物語は平安初期の作品で典型的な継子いじめの物語で宇野信夫さんが戯曲化したものです。
 
 源中納言(錦吾)は、妻を亡くして後添えに北の方(徳三郎)を迎え4人の姫をもうけるが、先妻の姫(時蔵)がいます。
 北の方は姫が美しい事の妬みもあって継子いじめが甚だしい。姫の住まいも母屋から離れた家の中でも床が一段と低くなっている暗くてじめじめした部屋を与えられている。皆は姫の事を落窪の君と噂する始末・・・

 ある日、中納言一家は三泊の予定で石山寺へ願ほどきに詣でる事になるが、姫には色々仕事を押し付け留守番をさせます。
 
 皆が出掛けた所へ侍女の阿漕(孝太郎)と夫の帯刀(染五郎)が訪れる、夫婦は何かと姫に幸せになってもらいたい一心で、都で一番の貴公子左近少将(橋之助)を引き合わす。
 お互いに気持ちが通じた二人は結ばれる。それを確かめた帯刀は、少将の母の許へ契りの堅めの餅(三日餅)を用意してもらう為牛飼いの童三郎(宗丸)を走らす。

 さて、三日目の夕方、三日の餅を前に夫婦の契りを始める所へ北の方達が帰ってくる。留守中に男を引き入れたふしだらな女だと中納言に親子の縁を切らす、実は北の方は三の君(吉弥)に少将を結ばす予定だったのだ。

 ここらあたりから・・・
少将の従兄弟兵部少輔(家橘)は三の君の寝所へ忍び込んで思いを遂げるわ、姫の叔父典楽助(幸右衛門)は邪な恋心を姫に抱いて、無理やり酒を飲まして思いをとげようとするわ、もうひっちゃかめっちゃかです。酒を飲んだ姫は、酒の勢いで典楽助や北の方達をなぎ倒します。

 少将に迎えられる姫に中納言は笛を吹いて門出を祝う。
馬盗人
 楽しくて面白い舞踊です。
栗毛の馬を引いて百姓の六兵衛(翫雀)が峠の坂道を上がって来る。この馬は市場で買ってきた馬である、酒を飲んでいる為喉が渇いたと馬を傍の木に繋いで水を飲みに川辺りまで行ってしまう。

 世の中悪いやつはいるもので・・・
ならず者の悪太(八十八助/現三津五郎)は。先程から隙を狙っていたが今がチャンスと仲間のすね三(染五郎)に、自分の首に縄をまわし木にその縄を繋げさせ、おまえは馬を峠の下まで曳いて行きそこで待っておけと命じる。

 水を飲んできた六兵衛木に繋いでいた馬が人間になっているのでビックリ仰天する。
この馬いやいや人間六兵衛を見ると「私は身分ある者であるが我侭をして神様から始末に負えないので馬になれといわれてこの有様です」と・・・
 「馬市で正直な人に買われたので人間になったのです」とかなんとか嘘八百を言っていますよ。
すっかり信じた六兵衛「馬だったので金が無い」と言うこの男に金まで渡してまた馬になるなよと言って別れる。

 下に降りた悪太はすね三と上手くいったわいと巻き上げた金で酒盛りを始める。
この二人、同じ女にぞっこんでその事で大喧嘩になる、そうこうするうちに酒の酔いがまわって眠り込んでしまう。

 そこへ後から追いついた六兵衛、あららぁ〜先程の馬が木に繋がっているではないですか。
あの人間が又馬になったと・・また市場まで買いに行かなくてすむ・・良かった良かったと言いながら馬を曳いて帰ろうとすると・・ 起き上がった男が「馬盗人」と叫びながら追ってくるではありませんか。

 騙されていた事に気が付いた六兵衛と悪太とのあいだで馬を間に引っ張り合いの喧嘩になる。
まあ〜なんと、馬の足が飛び六方をやったりと本当におもろい舞踊劇です。
勧進帳
 歌舞伎と言えばこれというくらい一番人気の勧進帳を今回は橋之助でどうぞ。

 奥州藤原氏を頼りに義経一行は人目をくらます為に武蔵坊弁慶(橋之助)を先達に、常陸坊海尊(錦吾)亀井六郎(幸太郎)片岡八郎(延郎)駿河次郎(當十郎)の四天王は山伏姿となり、主君義経(孝太郎)が笈を背負って強力に扮するという手段をとる。

 安宅の関に掛かる・・
弁慶は東大寺の勧進僧の一行と名乗るが、山伏であれば一人としてこの関所は通すわけにはいかないと富樫(染五郎)は言い張る。 義経達が山伏姿に変装しているという情報がすでに入っていた。

 富樫は先達の弁慶に勧進の趣旨の勧進帳を読めと命じる、弁慶には勿論勧進帳等があるわけがない・・・覚悟を決めて持ち合わせの巻物を取り出して書かれてもいない勧進の趣旨を朗々と読み上げる。
 富樫が弁慶に近づいて巻物を覗こうとする・・弁慶これをさっと隠す。弁慶と富樫の極まる、天地の見得。
 弁慶が読み終わって見せる、不動の見得。
 富樫は山伏のいわれ、扮装、心得、秘術などを細かく尋ねる、弁慶は澱みなく答えていく、最後に腰を落として極まる元禄見得。

 富樫はもう疑う余地が無くなり、勧進の布施物を進呈して通行を許す。

 「うまくいったぞ!」と一行が急いで関所を通ろうとしたその時!、富樫は刀に手をかけ強力を呼び止める・・・四天王もここで素性がばれては元も子もないと刀に手をかけて詰め寄る。

 ここから弁慶が大きな賭けにでる・・・
「わずかな笈なのに重そうにして遅くなるから怪しめられるのだ」と・主君義経を金剛杖で打ち据える。 「そんなに疑うのなら布施物と共にこの強力を置いていくから納得するまで糾明してくれ」と・・・

 総てを飲み込んだ富樫、改めて一行の通行を許す。

 しばらく行った所で、富樫を欺くとはいえ主君を打った罰は消えないと頭を垂れる弁慶に義経はその労をねぎらい、過日の明石での戦場の日々の物語を見せる、石投げの見得。

 長居は無用 一行が立ち去った時、、富樫が酒を持ってきて弁慶に一献差し上げる。
 富樫の心中に感謝し延年の舞を舞う弁慶・・・



 主君を追ってタッタッタッタタタ・・・タッタッタタタタ・・・・・・花道を去る弁慶。

 最も人気のこの演目・勧進帳は見得のオンパレードもう満足満足、皆様も一度劇場へ足をお運び下さい感動する事請合います。
茶壷
 踊りの名手三津五郎(当時八十助)舞踊の独壇場を再現しましょう。

 胡麻六(翫雀)は茶好きの主人に頼まれて茶の名所京の栂尾に買い付けに行く。その帰り、清酒の本場攝津の昆陽野の知人の家で酒を振舞われしたたか酔って道端に寝込んでしまう。

 そこへすっぱすなわち盗賊の熊鷹太郎(三津五郎)が通りかかり茶壷に目をつけましたよ、連尺の片方を脱がせて手を通し取ろうとする所で胡麻六が目を覚ます・「それがしが連尺に手をかける昼強盗、出会え出会え」と叫ぶと熊鷹も同じ事を叫ぶ。

 これを聞きつけた所の目代(秀調)が役目のくだりを舞う、茶壷を預かり先ず争いの事情を聞く。
しかし、熊鷹は胡麻六の答えを真似てどちらがどちらか分らない・・
 そもそも茶を〜〜から、胡麻六が茶の由緒因縁を踊る。次ぎに熊鷹太郎が宇治は茶所、以下を踊る。頼うだ人はから、茶の銘や出所が歌われ、胡麻六と熊鷹太郎の練舞になる。

 ところが、熊鷹太郎はそもそも茶の銘も出所も知らないので、胡麻六の踊りを盗み見しながら踊りを真似てゆく・・・この熊鷹太郎の踊りが最大の見所・間をずらしわざと下手に、しかも面白く踊りるのは名手三津五郎でなければの技量であろう。

 胡麻六は困り果てた時ふと気がつく、どうも自分は田舎者で声高にしゃべるので、それをすっぱが聞いて同じ様に答えるのだ、そこで今度は目代に壷の中の重さを目代の耳元で「15斤」と囁いた。
 何を言ったか分らない熊鷹はしどろもどろの返答・・・とうとう目代に見破られ逃げていく。

 というおもろい舞踊は、同題の狂言を歌舞伎舞踊化したものですよ。
 讃岐路に春を告げるという四国さぬき歌舞伎・
今年の座頭を務めるのは成田屋の市川團十郎を始め中村時蔵、坂東三津五郎等看板役者が打ち揃って賑々しく開催されましたね。私はこんぴらさんには何回もお参りした事はありますが残念ながら一度も金丸座には足を運んだ事はないのですぅ〜。
  市川團十郎といえば上方の和事に対して勇壮豪快な荒事を演ずる歌舞伎十八番の人気役者ですね。 今回はその荒事の原点「暫」をご披露しましょう。

 権勢欲に燃える中納言清原武衛(羽左衛門)が願掛けに名刀雷丸を奉納する為に鎌倉の鶴ヶ岡八幡宮に参詣に来ていますよ。

 関八州平定に僅かな軍功を立てたのを良い事に金冠に白衣をまとって鹿島入道震斎(我當)、梅が枝に瓢箪を結んでかつぐ照葉(秀太郎)、腹だしの家来(松助、正之助、十蔵、男寅)等を引き連れて威勢を誇っています。

 ここに加茂次郎義綱(彦三郎)、三郎義郷(家橘)、義綱の許家桂の前(萬次郎)、加茂家の家老宝木蔵人貞利(芦燕)、大江上總介正広(亀三郎)、局常盤木たちが引き立てられて来ています。

 探題の印を紛失して父頼義の勘気をこうむっているものの朝廷を思う忠誠心では負けない兄弟は繁栄を祈ってここ八幡宮に額を奉納したが、武衛は頼義に遺恨を募らせていたためそんな物は邪魔だ〜と強引に額を引き降ろしてしまいます。 ましてや桂の前に横恋慕していたりと、あやこれやで横暴な有様ですよ。

 あまりの態度に朝廷に奏聞しようと加茂兄弟は立ちかかる、腹を立てた武衛は神聖な社で争うは駄目だという照葉の忠告も聞かずに呼び出した腹心成田五郎(左團次)がまさに太刀を振り下ろさんとした時・・・

 しばらく・・しばらく・・しばらく・・辺りに轟くばかりに大きな声だぁ〜
             成田屋〜

 市川家の三枡の紋をつけた大きな素袍・腰に大太刀・五本車鬢に白い力紙と烏帽子をつけたかつら・力強い隈取り・祝言調のせりふ・そしてきまる見得・・・・

 加茂家の忠臣鎌倉権五郎景政(團十郎)の勇ましい姿が花道からの登場ですよ・・・

 やいやい追っ払え追っ払えと一同に発破をかける武衛・・・
震斎「わっぱめそこをたてェェ」〜「頭から塩をかけてかじってしまうぞ」と権五郎にへたへた〜。
照葉がやさしく頼むも「ぐずぐずするとにらみ殺すぞ」と一蹴される。
四天王やら奴なども追っ払おうとするが動じる気配も無い。成田や腹だし家臣も「来るに及ばず」と歯牙にもかけない。

 畏れ多くも誰の許しを得て金冠をつけてるか〜・真っ赤な偽物の雷丸の剣を奉納するのは君を呪詛する為であろう〜・無くしている印は隠し持っておろう〜・
 武衛たち悪人は知らぬ存知ぬと言い逃れしていると照葉が権五郎景政に進み出て探題の印は我が取り戻した、雷丸の名剣は渡辺小金丸行綱(亀寿)に預けたと言って持ち出す。照葉、実は権五郎の従妹であった。

 照葉の見事な働きで謀叛の企ては無になり、義綱はお家帰参叶い桂の前と祝言があげられる〜。
 おもろいですよ、なおもあがらおうとする腹を出している家来の赤っ面の首が長〜い太刀でごろごろごろりんと切り落されます。すっげぇ〜わ。

 大見得を切り悠然と花道を引き揚げる鎌倉権五郎に惜しみない拍手拍手!!。

与話情浮名横櫛
 いやさ、お富、ひさしぶりだなあ〜 皆さんお馴染みの名台詞ですね。
お富を福助、与三郎を團十郎で再現しましょう。

 序幕 下総木更津の浜辺で運命の出会いからの始まりですよ。

 小間物屋伊豆屋の若旦那与三郎(團十郎)今は木更津の藍玉屋膳右衛門に居候してます。
実は伊豆屋は子供が出来なかったので養子与三郎を貰って育てていたんですなぁ、ところが後に実子与五郎が出来たんですが、親は与三郎に跡を継がせ実子には分家させるとつもりだったんですが・・・

 ところが与三郎は身代は弟に譲らせようとわざと放蕩の限りを尽くして親を諦めさせたという経緯があるんです。 出入の鳶の頭金五郎(右之助)は与五郎から手紙を託されています、内容は兄さんに江戸へ戻って店を継いでくれる様にと書いています。
 まあ一杯やろうと浜のほうへ歩いて行くとこの土地の赤間源左衛門の妾お富(福助)が歩いて来ます舞台中央で二人が突き当たります・・・目と目が合いました・・・二人はお互いにひかれ合うものを感じます、見惚れて与三は羽織をずり落とす有様ですぅ。

 ある夜、源左衛門の留守をいいいことに忍び逢いをしていたんですな、ところが源左衛門に見つかって与三郎は身体に三十四ヵ所もなぶり切られ、お富は海へ身を投げるが和泉屋の大番頭多左衛門に助けられる。

 二幕目 源氏店の場
 
 あれから三年・・・
お富はいま鎌倉雪の下にある多左衛門の妾宅に住んでいます、黒塀に見越しの松の粋な住まいですよ、(春日八郎の歌を思い出しますねェ)

 折からの夕立、門口で雨宿りしている和泉屋の番頭籐八(幸右衛門)、お店の人のため気安く家に招き入れるがお富に気がある籐八は何とか言いながら擦り寄ってくる嫌ですねぇ。
 そこへたかりにきたのが蝙蝠の安五郎(十蔵)大きな声で怒鳴りつけるので面倒になり一分銀を出すと安五郎は納得して立ち上がる、ところが今度は連れの男が・・・・

 「一分もらってありがとうごぜいやすとお礼を言って帰るところもありゃまた、百両百貫もらっても帰られねぇ場合もあらァ。ここの内の洗いざれい、釜の下の灰までも俺のものだ」・・

なんとなんとその男は座敷に上がり込んで・・

 「御新造さんぇ、おかみさんぇ、お富さんぇ・・・・イヤサお富、久しぶりだなァ」・・・と顔を隠していた手拭を取って・・見れば全身傷だらけの男・・強請騙りの切られ与三
 ・・・「与三郎だ」「しがねえ恋の情けが仇〜〜〜」

 死んだと思っていたお富に旦那(家橘)いるとあれば気持ちが納まらないのは道理。
そこへ旦那が帰ってくる、囲い者とは表向きで枕も交わしていない保証すると旦那「お富をもって行っても良いが今夜というわけにはいかない」と十五両を与三郎に渡す。

 実は多左衛門こそお富の本当の兄だたんですね、何もかも承知の上で今日まで面倒を見てきていたんです。

 源氏店の由来、江戸初期幕府の医者岡本玄冶の屋敷地だったことから玄冶店と呼ばれるようになったそうです、いまの日本橋人形町三丁目交差展点近くだそうですが・。
荒川の佐吉
 江戸絵両国八景 荒川の佐吉は真山青果が辰巳・島田の新国劇の募集に際して入選した筋書きをもとに書いた侠客もので「天晴れ子守りやくざ」として上演されていたそうです。新国劇と言えば私は若い頃の緒方が中座で両御大と競演していたのを思い出します。

 その中座で荒川の佐吉を演じていた今の仁左衛門当時の孝夫で見ましたが今回は佐吉を勘九郎そして相模屋政五郎を卒寿を超えた島田正吾が演じたものを見ましたのでそれにしましょう。

 第一幕 江戸両国橋、出茶屋「岡もと」の前

 天保の末 以前は茅町の棟梁だった佐吉(勘九郎)はやくざの世界に憧れて今では鐘馗の仁兵衛(芦燕)の三下奴になっていますよ。
 日本橋丸總の妾になっている親分の姉娘お新(福助)のもとへ出産祝いを届ける途中無頼漢に絡まれていた田舎商人の親娘を助ける。
 ところが騒ぎを起こした軽率さを仁兵衛に叱られる、大工友達の辰五郎(獅童)は堅気に戻れと意見するが佐吉は強いものは勝つ世界だと取り合ず甲府へ旅立つ。
 この様子を見ていた俄浪人成川郷右衛門(橋之助)は仁兵衛を斬りつけその子分清五郎(十蔵)も斬り捨て縄張りはもらったと言い悠々と立ち去る。

 第二幕 第一場 本所清水町仁兵衛の住所

 四ヵ月後、身体が不自由になった仁兵衛は鐘馗一家を解散すると盃を割る。子分たちは皆成川へ鞍替えし今では妹娘お八重(扇雀)と詫び住まい、たまに来るのは徳兵衛(亀蔵)くらいのもの・・
 佐吉と言えば甲州ではしかにかかり親分一家の事を聞いてはいたが動けなくてヤキモキしていた。が、漸く帰ってくるとお八重に自分から稼ぐからと言うものの気分を損なわれる、ア〜何としたもんでしょうねぇ。

 雨の中、仁兵衛はお新が生んだ卯之吉を抱いて帰ってくる、実はこの卯之吉盲目で生まれてきた為丸總では世間体を気にして母子共々離婚しようとしていたんですなァ、お八重はそれを養育費を貰って子供だけを引き取った親を蔑み、ましてや佐吉と夫婦になれと親に言われ自尊心を傷つけられたと家を飛び出していく。
 佐吉が止めるのも聞かず仁兵衛は縄張りを取り戻そうと博打場へ出かけて行く・・・

      第二場 法恩寺橋畔

 いかさまがばれて仁兵衛は殺される、あ〜ぁなんと佐吉は盲目の子供を抱きながら亡骸を引き取るのであった・・・

 第三幕 第一場 大工辰五郎の家

 佐吉は卯之吉を連れて辰五郎の家へ身を寄せて6、7年の歳月が流れています。
人一倍利発の卯之吉を佐吉は我が子のように可愛がり末は検校にしようと思うがしがない遊び人と大工ではそれも夢のまた夢・・・

 このところ丸總から跡取が出来ないから子供を返してくれと・・今さら勝手なと佐吉は取り合わない。
 ある日丸總から頼まれたと鳶頭の彦次郎と土佐藩の部屋頭白熊忠助が来て百両で子供を返せと卯之吉を奪おうとする、必死に闘っていて手斧で皆を打ち殺してしまう。人間捨て身になれば怖い物知らずになると知った佐吉、辰五郎に卯之吉を預け親分の敵と成川を討ちに出て行く。

      第二幕 秋葉権現の辺

 夜遅く、向島秋葉権現近くの隅田川で佐吉は子分共々成川を討ち取る。籠で通りかかった相模屋政五郎(島田正吾)江戸箔屋町の口入れ家業の大親分が後見する。

 第四幕 第一場 両国橋付近佐吉の家

 1年後。 佐吉は大川端に家を構え鐘馗の縄張りを継ぎ貫禄もついてきたところ・・

 お花見に受かれる頃相政がお新を連れてやって来ましたよ・・何だろう?・・
相政の言う事には、お新も心から前非を悔いている主人が大病をして明日をも知れない卯之吉を是非引き取らせて欲しい事、今は芸者になっているお八重と一緒になって鐘馗2代目を継いで行く事。

 骨身を削って育てた卯之吉を手放す事はできない。が、相政の言葉は子供の将来を思えば大身代の丸總へ返したほうがよいと言う・・悲しいですねぇ〜
 「蟹は手前の甲羅に似せて穴を掘るんだとよ。やくざ稼業は親のしにせもなけりゃ、人の引きもねぇ。うぬが自力で掘るしかねぇ」

 辰五郎に卯之吉を送り届けさせ、2代目を断わると、旅人で一生過ごす事を心に決め・。

 第四幕 第ニ幕 向島長命寺前の堤

 翌朝、旅支度をした佐吉、約束の向島長命寺辺りの掛茶屋へ来ると・・そこへは罪滅ぼしにあえて顔をさらすお八重が来ていた・・・

 卯之吉、相政、辰五郎が名残を惜しむなか佐吉は旅立って行く・・・
芝翫奴
 先年松竹座で観た橋之助の奴踊りを再現しよう。
文政二年江戸中村座で二世中村芝翫が初演以来の長唄の人気舞踊で「供奴」と言われている。
 これに橋之助が挑戦。

 江戸吉原に「してこいな」と箱提灯を手に威勢良く駆けて来る。主人とはぐれた奴の駒平(橋之助)ここで一休み、忠義な奉公ぶりを自慢して主人の廓での様子を伊達な六方ぶりを真似たり。
 足拍子で身体を横に倒して起き上がったりと見せ場を作る。

 最後は足丸出しの為ごまかしがきかない奴の役を橋之助が軽やかに踊る。
ひとしきり踊って見せるとまた主人を追って行くという滑稽な踊りである。
お祭り
 十一代目市川海老蔵襲名披露 5月大歌舞伎に出演中の團十郎さんが急性白血病で入院されていますがここは治療に専念されて早い復帰を皆さんとともに祈念いたします。
 
 と言うところでここはお見舞をかねてに賑やかに囃しましょう。
 
 江戸三大祭り・赤坂日枝神社の山王祭に赤坂界隈はお祭り気分に沸き立っていますよ。

 申酉の花も盛りの暑さにも〜・・鳶の若い衆、芸者衆らが集まってきましたよ。
引けや引け引け引く物にとりては 花に霞みよ子の日の小松 初会の盃馴染みの煙草盆 〜〜 〜〜 引くもの尽くしで軽妙に踊っていきます・・・
 
 続いて鳶の頭(我當)と芸者(秀太郎)
祭りのなぁ派手な若い衆が勇みにいさみ身なりを揃えてヤレ囃せソレ囃せ 花山車手古舞警護の行列よんさ〜〜〜
 
 ほろ酔い機嫌で芸者(鴈治郎)
云わずと知れしお祭りの〜〜   
 あちこちで振る舞い酒をいただきいい気持ちで粋な芸者はお馴染みとの馴れ初めを話す。
じたい去年の山帰り 言うは今更過ぎし秋  〜〜 〜〜 心に二つはないわいな・・
 馴染みの鳶頭(團十郎)
祭りに対の派手模様 〜〜 〜〜 知っていながら女房になってみたいの欲が出て 神や仏を頼まずに 義理も糸瓜もの革羽織 〜〜

 他の鳶(三津五郎)と芸者(福助)も集まってきて
ヤアやんれ引け引けよい声かけて エンヤレサやっと抱きしめ 床の中から小夜着蒲団をなぐりかけ〜〜〜 えんやえんやこれはあれはのさのぇ〜

 なおなお大勢の人が集まってきて、祭りは賑わいます・・・・・


トップへ
戻る