月夜

 それは満月の夜のお話。

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 ビルの上に立っていると、女の人にあった。
「こんばんは」
 きれいな、きんいろの長いかみのその人はそう言ってわらった。
「ここで何をしているんですか?」
「・・・だあれ?」
 女の人はすこしひかっているみたいにみえた。
「ただ散歩しているだけの通りすがりですよ」
 お花のついたぼうみたいなのをふって、またわらった。
「あたしね、あのきれいなのがみたいからここからおりるの。でもおりるとなんだかわからなくなるから、またここから
おりるの」
 下をみるとくるまやひとがとおっている。それがきれいでもっとみようとおもう。
   また。おりる。


 目をあけると、女の人がすぐよこにいた。
 でもあたしはビルの下のきれいなものがみたくてまたおりようとする。
 「綺麗なものなら、他にもありますよ」


 もう一回おりて、また目をあけると、女の人はビルのはしっこにすわっていた。
「そこをどいてちょうだい」
 女の人がこっちをむいた。
 むらさきいろの目だった。
「私と一緒に綺麗なものを見に行きませんか?」
「あたしはこのしたの、きれいなものがみたいの」
「ちょっとだけでもどうですか?」
「あたしは、このしたのがみたいの」
「そう言わずに」
 にっこりわらうと、ビルのはしっこから立ってそのさきにういた。
「・・・ゆうれいなの?」
「似たようなものです」
 あったかい手があたしの手をもった。
  ・・・・おちないや。


 おひめさまみたいにだっこされて、きれいなところをずっととんだ。
 女の人は、色んなことをにこにこしながらしゃべってくれた。
「かみさまなの?」
 女の人はすこしのあいだびっくりしていたけど、すぐに「そんなところです」と言ってわらった。


「きれいなもの、いっぱいみせてくれたね」
「はい。あなたが見たいと言いましたから」
 ゆっくりゆっくり。きれいなのの上をとんでいく。
  「・・・・・ありがとう」
 あたしがわらうと、女の人は今までよりもっとわらった。

 「---------じゃあ、今度は上を見てみませんか?」

 ビルの上にかえってきて、いっしょに上をみた。
 きれいなまんまるのお月さまがひかっていた。
「綺麗でしょう?」
「うん。・・・・でもどうしよう。あたしあそこへいきたい」
「行けますよ」
 女の人のわらったかおをみて、あたしはどきどきした。
「さよならしたくない」
「大丈夫。なた会えますよ」
 あたしのあしの下に、ひかるかいだんがあった。
「怖がらずに。上っていってくださいね」
「うん。・・・・またね」
 あしがかってにかいだんをあがっていく。
「はい。またお会いしましょう」


  つきのひかりに あたしはすいこまれた。

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