XX



どうも
夢を見ているらしい。

同じ顔。
同じ瞳。
同じ長い髪。
同じ体形。
そして多分ひとにはこう聞こえているだろう同じ声。

暗闇のなかに
ぽつんと
自分と同じものが。

鏡を見るのが時々嫌いだ。
そこに映る自分を見るのが。
それは大体どこかしら機嫌の悪いときで。

・・・嫌いだ。

つまりこいつを見ていて嫌な気になるということは、今機嫌が悪いということか。

そいつがにやりと笑う。

全てを知っているというような、全てを見下しているような、そんな笑み。
いや、ここには自分しか居ないのだから、見下されているのは自分か。
しかし夢でも何でもこういう事態のとき、相手が事態を把握し何でも知っているというのが多い。
何故だ。こっちが優越してもいいんじゃないのか。大体何で同じ姿形で出てくる。

そう考えていると、相手はすっと銀髪赤目に変わった。色水に白い絵の具を落としたように。一瞬のアルビノ化。
考えが伝わっているのか。

「何故、黙っている?」

 喋り方は自分と違った。
 蔑んだ笑みに冷たい声色。ここまで悪人じみた真似がよくできるもんだ。
「誰だあんた」
「私はお前だよ」
 ありきたりな。
「・・・まあ、自我は別物だが。組成は同じだ」
 何がおかしいのか、笑みを強める。
「何がしたいんだ」
 それにいらついて睨む。
「わかっているのだろう?」
「何が」
「・・・そこまで考えているのならば想像は容易だ」
 やっぱり考えを読んでいるらしい。
 考えている事。ありきたり。お約束な展開。
 ならこの続きは―――
「肉体の支配権の譲渡、か?」
「勿論」
 泰然と腕を組んで応えるそいつ。その自信はどこから来るんだ。お約束のように超人的な能力を持っていたりするのか。
「私はお前より優れた知識を持っている」
 どうあがいてもかなわないような。
「お前に無い能力も」
 ・・・・・・。
「私に足りないのは後肉体のみだ」
 かなわない、だと?

「・・・ジョーダンじゃないわよーう」

 フザけたセリフを無表情に呟いて、こっちも腕を組んだ。
「どっから涌いて出たんだか知らねェがな。いきなり顔出してデカい口たたいてんじゃねーよコラ」
 相手の顔が歪んだ。
「・・・何だと?」
「あァ?何か文句あんのか。十年ちょっとの間オレが使って育ててきたオレの体だ。あんたがちょっとオツムが良かろーが
器用だろーが、乗っ取るってんなら力の限り抵抗すんのは当然だろうが」
「・・・それが、答えか」
 ぎしりと、視線が強くなる。
「ならば力尽くで奪うのみ」
「上等」
 にやりと笑ってみせる。

 ここがよくあるように精神世界なら。
勝負は一瞬。
 意思の強い方が勝つ。

 むこうが手のひらをかざした。
 精一杯、自分を誇って告げる。


「どうされようとやんねーよ。あんたはオレじゃない」

 今までの過去を消されてたまるか。
 拠り所をとられてたまるか。
 それより何より、この暗闇に居続けるのが嫌だ。
 相手の顔がひきつるのがわかる。
 こいつがどんな理由でオレを狙うのか、たとえ同情するようなものでもかまやしない。ひとのものをとるな。
 
「そんなに賢いなら自分でどうにかしな」

 皮肉さえ込めて言ってやる。
 奴の輪郭が揺らいだ。

暗闇が押し寄せてくる・・・。


――――――――― !


 目がさめた。
 しばらくはよくわからない恐怖に凍る背筋に、身動きも取れない。
 耳元で動悸がきこえる。
 目がまだ開けられない。

 やがて、大きく息を吐いたとき、布団の上から叩かれた。
 周りの音が戻ってくる。
「・・・・・・うー」
 寝ぼけた声で起き上がり、叩いた奴を見て。
 絶句する。

「おはよう」

 朝日にきらきらと銀髪を輝かせながら、あいつが笑っていた。

 

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