どうも 夢を見ているらしい。 同じ顔。 同じ瞳。 同じ長い髪。 同じ体形。 そして多分ひとにはこう聞こえているだろう同じ声。 暗闇のなかに ぽつんと 自分と同じものが。 鏡を見るのが時々嫌いだ。 そこに映る自分を見るのが。 それは大体どこかしら機嫌の悪いときで。 ・・・嫌いだ。 つまりこいつを見ていて嫌な気になるということは、今機嫌が悪いということか。 そいつがにやりと笑う。 全てを知っているというような、全てを見下しているような、そんな笑み。 いや、ここには自分しか居ないのだから、見下されているのは自分か。 しかし夢でも何でもこういう事態のとき、相手が事態を把握し何でも知っているというのが多い。 何故だ。こっちが優越してもいいんじゃないのか。大体何で同じ姿形で出てくる。 そう考えていると、相手はすっと銀髪赤目に変わった。色水に白い絵の具を落としたように。一瞬のアルビノ化。 考えが伝わっているのか。 「何故、黙っている?」 喋り方は自分と違った。 蔑んだ笑みに冷たい声色。ここまで悪人じみた真似がよくできるもんだ。 「誰だあんた」 「私はお前だよ」 ありきたりな。 「・・・まあ、自我は別物だが。組成は同じだ」 何がおかしいのか、笑みを強める。 「何がしたいんだ」 それにいらついて睨む。 「わかっているのだろう?」 「何が」 「・・・そこまで考えているのならば想像は容易だ」 やっぱり考えを読んでいるらしい。 考えている事。ありきたり。お約束な展開。 ならこの続きは――― 「肉体の支配権の譲渡、か?」 「勿論」 泰然と腕を組んで応えるそいつ。その自信はどこから来るんだ。お約束のように超人的な能力を持っていたりするのか。 「私はお前より優れた知識を持っている」 どうあがいてもかなわないような。 「お前に無い能力も」 ・・・・・・。 「私に足りないのは後肉体のみだ」 かなわない、だと? 「・・・ジョーダンじゃないわよーう」 フザけたセリフを無表情に呟いて、こっちも腕を組んだ。 「どっから涌いて出たんだか知らねェがな。いきなり顔出してデカい口たたいてんじゃねーよコラ」 相手の顔が歪んだ。 「・・・何だと?」 「あァ?何か文句あんのか。十年ちょっとの間オレが使って育ててきたオレの体だ。あんたがちょっとオツムが良かろーが 器用だろーが、乗っ取るってんなら力の限り抵抗すんのは当然だろうが」 「・・・それが、答えか」 ぎしりと、視線が強くなる。 「ならば力尽くで奪うのみ」 「上等」 にやりと笑ってみせる。 ここがよくあるように精神世界なら。 勝負は一瞬。 意思の強い方が勝つ。 むこうが手のひらをかざした。 精一杯、自分を誇って告げる。 「どうされようとやんねーよ。あんたはオレじゃない」 今までの過去を消されてたまるか。 拠り所をとられてたまるか。 それより何より、この暗闇に居続けるのが嫌だ。 相手の顔がひきつるのがわかる。 こいつがどんな理由でオレを狙うのか、たとえ同情するようなものでもかまやしない。ひとのものをとるな。 「そんなに賢いなら自分でどうにかしな」 皮肉さえ込めて言ってやる。 奴の輪郭が揺らいだ。 暗闇が押し寄せてくる・・・。 ――――――――― !
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目がさめた。 しばらくはよくわからない恐怖に凍る背筋に、身動きも取れない。 耳元で動悸がきこえる。 目がまだ開けられない。 やがて、大きく息を吐いたとき、布団の上から叩かれた。 周りの音が戻ってくる。 「・・・・・・うー」 寝ぼけた声で起き上がり、叩いた奴を見て。 絶句する。 「おはよう」 朝日にきらきらと銀髪を輝かせながら、あいつが笑っていた。