文化的特別教育講座
Lafcadio Hearn と 松江

   ラフカディオ     ハーン    and  Matsue 



ハーンと私との出会い
ラフカディオ・ハーン(小泉八雲)と言っても、今の若者などは案外知らないだろう。せっかく島根県に住んでいるのだから、少し興味をもたれたかたは読んで見て下さい。私が初めて知ったのは、高校の英語で、「日本の面影」という山田太一シナリオのNHKドラマを見せられたのだが、このビデオが意外にも実に面白かったのだ。アメリカで新聞記者をやっていた青年ハーンが日本の政府の次官(津川雅彦が演じてた)の話す神話にどんどんひきこまれて、日本の繊細な美しさに夢中になっていく映像は新鮮で、どっぷり感情移入してしまった。その街、松江に自分が来るとは、思いもよらなかった。しかもちょうどハーンとは100年ずれて。
ハーンと松江
松江の観光パンフレットを見ると、とにかく必ず書いてある文句が「松江をこよなく愛したハーン」というやつだ。私も最初は「だー。まぁた我田に水引いてくれちゃってもう。だったらたった1年ちょっとで帰るかよー」
ぐらいに思っていたが、これが違った。ハーンは本当にまじで松江という街が好きだった。少なくとも並の日本人よりはるかに。私の知っている限り、これほど日本の文化を深く理解しようとしたのはあと、ライスシャワーとベネディクトとポール・ボネ(笑)ぐらいだ。そして、そのハーンがたったの1年3ヶ月で帰っちゃったのは「寒かったから」特に眼の病気の悪化を恐れてまさに泣く泣く去ったのだった。広島から来た私も島根がこんなに寒いとは計算外だった。(なんと松江は北緯N35.5東京とほぼ一緒)*松江は風が強く、あと雨が多いですね。同じジャパンでもここまで違うのかとびっくり。さらにキャッツアイのごとくころころ変わる天気にもうんざり。こちらで有名な言葉「弁当忘れても、傘忘れるな」を聞いて思わず納得。

へるん旧居。「へるん」というのが何のことか知らない人が多いがHearn(ハーン)の間違ったローマ字読みがそのまま広まったもの。また八雲はハゥンと読める。
写真は掲載しないがハーンの写真は全て左向きで左目が写っていない。ハーンは片目でチビという醜い容姿にすごくComplexを持っていて(欧米人としては)それが彼の人生に大きな影響を与えた。人間嫌いな面もあったが、弱いものいじめをとても憎んだ(そうだ。)
ハーンの人生
さてしかし、ハーンの人生というのはものすごい。シュリーマンもびっくりといった感じの波乱万丈さで、まさにそれ自体がドラマで物語(ストーリー)だ。ギリシャで生まれた後→アイルランド→英国→ウェールズ→フランス→ニューヨーク→シンシナチ→ニューオリンズ→西インド諸島⇒松江⇒熊本→神戸→東京と地球を3/4周した。移動マニアとも呼べそうなその行動力。その間、父は愛人のもとへ妻子を捨てて逃げるわ、母はどっか行ってしまい消息不明になるわ、学資出してくれていたおばは事業に失敗して破産するわ、少年時代事故で片目つぶすわ、悲劇のフルコースのような極貧の中、図書館
に通い勉強し続け、アメリカで有名記者として成功した後、未開の東洋の国日本へ来日している。書いていて息切れしそうだが、やはり息切れしたのか、54歳で狭心症の発作でポックリ死んでしまった。そういえば中野翠が「世の中には2種類の人間がいる。毎日が同じということに耐えられる人間と耐えられない人間とだ」って言っていた。変化が欲しいと思いつつも日常生活に忙殺されて停滞している私としては、常に異文化との接触を追い求めたハーンの人生には、圧倒され、反省し、尊敬し、憧れるものだ。*ハーンは松江で武家の娘、小泉セツと結婚した。
ハーンの思想
「日本の面影」の中で当時万博のためアメリカへ来ていた日本政府の役人から、日本の怪談(ろくろ首)を聞いたあと、ハーンはこんなことを言う。ハーン「ニューオリンズにもこんな迷信がある。鶏が水を飲む。水を飲んでは上を向く。あれは神様に水を下さったお礼を申し上げてる、と言うんだ。科学的にはナンセンスだ。しかし、鶏を見て、ああ水を飲んでる、と思うだけの人間と、ああ神様に感謝していると思う人間と、どちらの心が本当の意味で豊かだろう」「私は迷信を打ち壊すと、一緒に壊れる心もあると思っている。今のアメリカは科学と合理主義で荒れていく一方だ」。日本の役人「そりゃヨーロッパ人の余裕ちゅうもんじゃ。今の日本に迷信を愛する余裕はない。近代国家として力をつけ、列強の植民地にならんよう・・・・(と続く)」。私はこの場面が好きだ、何かハッとする。今の日本の成功は文化を捨てるうまさにあったんだけど、ハーンはその日本が切り捨てていった闇の部分・不可解なもの・迷信にひかれた。多分日本人が「となりのトトロ」を見て、どこか懐かしさ感じる郷愁も同TYPEのものじゃなかろうか?そして私が仕事をしながらもUFOや超能力、ネッシー(古い)に興味がつきないのも、神秘的悪魔的な美にあこがれたハーンの思想の案外近くにいるのかもしれない。
番外編
夏目漱石:日本好きのハーンが東大講師(すごく人気があった)を首になったのは、西欧嫌いでノイローゼになって英国から帰ってきた漱石を新しく雇うためだった(なんと)。運命の皮肉。「坊ちゃん」はみんな読んだ事あると思うけど、あの「赤シャツ」は西欧嫌いの漱石としては当初白人教師の設定だったけど、ハーンの話を聞いて、漱石は日本人教師に変更したのだ(なんと)。

参考文献:亀ちゃんのさかだち