§1 ファラデーの生い立ち
「20世紀最大の科学者は?」と問われたら多くの人はアインシュタインと答えることでしょう。
これと同様に「では19世紀最大の科学者は?」と問われたら、その候補として最も近い位置にいるのがファラデーといえます。
一口に「ファラデーの法則」とだけ言ってしまうと一体どの法則かわからないというぐらい、彼は物理・化学の多分野について、電磁誘導など数多くの法則を発見しています。
ファラデーが生まれた家庭は大変貧しく、本当は勉強がしたい彼の思惑とは裏腹に、小学校を卒業すると同時に13歳ででっち奉公、すなわちメシと寝床はあるけど給料がない、という状況に置かれることになりました。
彼の奉公先は製本の会社でした。勉強好きのファラデーは休憩時間になると、印刷中の本を読んでいましたが、そこで印刷されていた本は主に大学向けの本であり、まだ幼かった彼には内容がよく分かりませんでした。
そんな中、唯一なんとか理解できたのは、フラスコやビーカーといった化学の実験器具のデッサンや図解でした。彼は絵心のある先輩にデッサンを教えてもらい、なんとか分かる範囲で来る日も来る日もその化学の本を読んでいました。
§2 市民講座
そんなある日、ファラデーの住む町で、とある市民講座が開かれることになりました。
その市民講座の教授は、なんとファラデーがいつも読んでいた本の著者だったのです!
ファラデーはなんとしてもこの講座に行ってみたかったのですが、当時の市民講座は、大学の教授が研究費をまかなうために、貴族を相手にしておこなう小遣い稼ぎ的な意味合いが強かったため、結構な額の受講料を支払わなければなりませんでした。
ファラデーは兄と奉公先の主人に頼みこんで、なんとかお金を工面することに成功しました。
そのとき奉公先の主人が、
「紙ならたくさんあるから、ノートは自由につくるがいい」
と言ってくれたので、とびきり上等なノートを作ってその日に備えました。
市民講座当日。教授はいつものように見た目にハデな化学反応を起こして奇術まがいの講義をやって、貴族達を満足させてやろうと教壇に立つと、そこに異様な光景を目にします。
いい大人の貴族達に混じって、ボロボロの服を着た、それでいてノートだけはやたら立派な、しかもそこに描かれる実験器具の図は実に上手いという「謎の少年」が最前列に座っているのです。
教授はそのファラデー少年のことが気になって、講義が終わった後も彼のことが忘れられませんでした。
§3 大学の助手に
それから月日は流れ、あるとき教授の助手が病気で倒れてしまい、大切な論文が締め切りに間に合わなくなるかもしれないという事態になりました。
その倒れた助手は図解を描く担当で、教授は元来図を描くのがヘタでした。
困った教授はそのとき、あの少年を思い出しました。
教授はファラデーのもとに使者を送り、彼の助手として働くことを依頼します。
こうしてファラデーは晴れて科学者としての人生をスタートさせることに成功したのです。
小学校しか卒業していないファラデーはそのことにコンプレックスを持っていましたが、ある日教授から、
「小学校しか卒業していない人しかできない発見もあるはずだ。科学者にとって「常識」は時として発想の障害になることがある。」
と励まされ、小さな疑問点もうやむやにしない科学者へと成長していきます。
§4 ロウソクの科学