♪前田憲男とウインドブレイカーズ ライブレポート♪
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受付のお姉さんから,会員になるにはボトルをキープする必要があると告げられる。もちろんそのことは事前にチェック済みなのだが,普段ビール以外の酒を飲むことなどないワタシにとっては,示された酒の名前を見ても何のことやらさっぱりサッパリわからない。そして当たり前のことだが,どのお酒もいいお値段。慣れていないワタシはこれにはちょっとビビってしまった。しょーがないので一番安い国産のリザーブを入れることにした。
受付 「会員の方ですか?」 Daisuke 「いえ,昨日電話で,今日来店時に入会手続きをするといって予約したモノです」
お名刺って,そんなもん持っとらんわい(広島弁)!!見れば入会申込書には,勤め先の名前や部署まで書く欄があるではないか。
受付 「ご入会に際しまして,ご連絡させていただく場合などのために『お名刺』をいただけますか?」 Daisuke 「は?」
Daisuke 「あのー,名刺(なんてモノ)はないんですが…?」
まさかこれで断られてしまうのか!?一瞬ワタシの脳裏に緊張が走る!!しかし,名刺なしでも無事会員入会手続きはでき,晴れて場違いなワタシは『銀座の倶楽部』の会員となったのだった。 手続きが済むとボーイが店内へと案内してくれる。店内は15×20mくらいといったところの広さ。天井は手を伸ばして軽くジャンプすれば届くほど低い。その中央部分にプレイヤーのためのスペースがあり,それを取り囲むようにラウンドテーブル(半分くらいに切ってある),さらに狭い通路を隔ててテーブル席が並ぶレイアウト。ワタシの席は店の奥の方,ブラスセクションを左手から見る位置(A)だった。しかし,普通に座るとプレイヤーに背を向けるレイアウトなので,からだを常に半身にしておかなければならないのがツライ。 ボーイが「お飲み物は?」と聞いてくるので,貧乏性のワタシはこれまた一番安い「グラスビール」を注文。しかし値段は安いといっても¥840!!こんな高いビールを飲んだことがないワタシはさらにビビってしまったのだった。 |
店内配置図 (イメージです) |
そうこうするうち,客がちらほらとやって来だした。しかし入ってくる客の姿を見てまたビックリ。いずれも高そーなスーツに身を固めた中年のおっちゃんばかり。しかも傍らにはこれまた高そーなお召し物を身にまとったおばちゃん(マダムというべきか?)か,思いっきり若いおねぇちゃん。「いったい何なんだこの店は?…あ,そうか,これが『銀座の倶楽部』なのか!」と勝手に納得した30そこそこの思いっきり場違いな個人客のワタシはさらに小さくなってしまっていたのであった。 |
18時半を過ぎた頃,一人のラフな赤いシャツにグレーのズボンという40代くらいの男性が入ってくる。彼は中央のプレイヤースペースに入りおもむろにトランペットを取り出し演奏の準備を始めていく。「WBのメンバーの人だ!」その人は河東伸夫(かとうのぶお)さんで,WBでは数原さんのサイドをつとめるプレイヤーである。そのうちに開演時間も若干過ぎ,いよいよWBのメンバーがそろい始める。そしてついに数原さんの登場!服装は青系のラフなシャツにGパンというもの。他のメンバーはスーツにネクタイだったりノーネクタイだったり,はっきり言ってバラバラ。指揮者でありピアニストであり司会者の前田憲男さんはさすがにスーツにネクタイだったが,ラッパのお二人はやたらに服そうがラフ(笑)。Tbの原田靖(はらだやすし)さんは歯の治療のためしばらくお休みだったが,「今日から試運転(前田さんのメンバー紹介)」だとか。Bassの荒川康男さんは「バークリー留学のハシリ(前田さんのメンバー紹介)」で,吹奏楽ではニューサウンズのゲストとしてもおなじみのプレイヤーだ。
そしていよいよWBのライブがスタート。その始まり方にちょっとびっくり。バンドのメンバーがまだゴソゴソと準備をしているような状態で前田さんが指ならしのようにアドリブを始める。そしていつの間にかメンバーがそれに合流していき,いきなりどかんとスタート!オープニングの曲は前田さんオリジナルの「Co-operation」。それにしても話に聞いてはいたが,WBはスゴイおじさんのバンドである。メンバーで最年少の河東さん(1955年生)が他のメンバーの息子さん?と思えるほど(笑)。さて,数原さんをちょうど左真横から見ることができるという結果オーライの好位置をゲットしたワタシは,ビールもそこそこに演奏に聴き入っていた。そうこうするうちに第1部は終了,しばしの休憩に入る。今日は全3部構成,長丁場なのだ。腹も減ってきたワタシはガツガツといろんな料理を食べている周囲につられて(というより何か頼まないとイケナイような雰囲気にのまれて)料理を注文することに。そこでメニューを見て!!高い…,高すぎる。一番安いパスタ1皿が¥1,680−。後のメニューは推して知るべし。しょーがないのでその一番安いパスタ「アラビアータ」を注文する。でも目茶苦茶おいしかった。演奏中にトイレへ行ったらもったいない!ということでビールが効いてきたワタシは休憩中にトイレへ。ボーイにトイレの場所を聞くと,店内にはトイレはなく,店を出て通路向かいの共同トイレを使うとのこと。え?ここって『銀座の倶楽部』じゃなかったっけ?と混乱しつつ店外へ。すると店の外にはパイプイスが並べてあり,そこで何人かがたばこを吸いながら談笑している。ふと見ると何とそこにあこがれの数原さんが!!そういえばまわりに他のメンバーさんもいる。そうか,この倶楽部はメンバーが休憩中にどこかへ引っ込むわけではなく,なじみの客のテーブルにやってきたり,こういうところで談笑したりするのだ。ワタシはいつどういうタイミングで数原さんに話しかけてサインをもらおうかと考えていたのだが,休憩といってもそんなに長時間ではないので,終演後をねらうこととしてここはやめておくことにした(単に勇気がなかっただけというハナシもあるが)。そしてトイレに行ってまたビックリ。Tpの河東さんとお隣さんになってしまった。あまりにあまりだったので声もかけられずじまい。イヤハヤすごいところへ来たもんだ。
第2部のスタート。2曲目にワタシのリクエストした「I Remember Clifford」が演奏される。1部では数原さんのSoloはなかったのだが,ついに生で数原さんの音を,もちろんFlugelHornで聴くことに!ボーイが持ってきた「アラビアータ」には目もくれず数原さんのしぶいSoloに聴き入る…。そして夢のような至福の時間は数分で終了。
2部の最初にメンバーが紹介されたが,数原さんは前田さんから「かずはらすすむ」と紹介されていた。この件については最後に。
途中で,今日が誕生日という客のためにWBによる「Happy Birthday To You」の演奏がプレゼントされる。そのお方はスポットライトも当てられて結構ハズカシそう。演奏もド派手に盛り上げる。え〜と私の誕生日は…。
さていよいよ最終第3部。時間はすでに22時になろうとしている。まわりを見るとぎっしりだった客も少し減っているようす。するとつかつかとボーイがやってきて
ボーイ 「お客様,カウンター席が空きましたので,そちらにご案内致します。」 Daisuke 「!」
「やった!」と思いつつ胸躍らせてカウンター席へと移動する。しかし,その席はバンドのほぼ正面,T.Saxの稲垣次郎さんと西條孝之介さんの真ん前(B)で,数原さんの姿はちょうど楽譜や稲垣さんの陰にちょっと見える程度という席。「ああ,これならさっきの席の方がイイかも…」と思いながらも基本的には特等席ということと,そしてSoloのときは立って演奏する数原さんの音をほんの3メートルほどの距離で真正面から聴ける位置ということでポジティブに受け止めた。結果的には違う位置から聴けたことはとてもよかったと思う。音は断然こちらの方がいいんだから。
そしていよいよ最後の曲「Take Five」が演奏される。ラストの部分にエキストラDrの八城邦義(やしろくによし)さんの長〜いSoloもあり店内は大盛り上がり。その数分のSoloの間,ほかのメンバーはそそくさと退席していき,Soloが終わるころにまた戻って来るという演出もあった。数原さんもハイトーンをびしびし決めて曲を締めくくる。う〜ん満足。
さて,ライブは終わったものの,ワタシにはまだ「大仕事」が残っているのだ。そのために,そそくさと会計処理をすませたワタシは受付の傍らにWBの20周年記念ライブのCDが置いてあるのに気がついた。これは買わねば!反射的に残り1枚になっていたCDを手に取った。するとCDのお金を払っているときに店の支配人とおぼしき男性がそばに来て
支配人 「お客様,このCDは開封してもよろしいですか?」 Daisuke 「はぁ?」 支配人 「サインをいただいてまいりましょう」 Daisuke 「あ…,お願いします」
すると支配人らしき男性はCDを持って店内に戻っていく。「ん?待てよ,サインって誰のサインだ?」
お金を払い終えたワタシは預けていた楽器ケースを受け取り,急いで彼を追う。
Daisuke 「すいません,サインはどなたのものがいただけるんですか?」 支配人 「前田憲男さんです」 Daisuke 「あのー,数原さんのサインもいただけますか…?」 支配人 「かしこまりました(笑)」
まずは前田さんがCDにサインをしてくれた後,数原さんが楽器ケースを抱えたまま,ジャケットにペンを走らせる。そして数原さんがサインを終えたとき,意を決してワタシは話しかけた。
Daisuke 「はじめまして,今日数原さんの演奏を聴きに広島から来ました。」 数原さん 「え?広島から?そう…,僕は岡山なんだよ(もちろん知ってます!)。…あ!ラッパのケース!」
数原さんはワタシが抱えているケースを「釣りのケース」ではなく,「ラッパのケース」とすぐにわかってくれたようだ(笑)。
(ところで銀座のジャズクラブに釣りケースを抱えてくる人っているの?)
Daisuke 「あのー,もしよろしければこのケースにサインをいただけませんか?」 数原さん 「あー,いいよ。」
そしてワタシは数原さんとともに店外へ出る。ぬかりなく持ってきていた太めの油性マジックを取り出しサインを依頼する。
数原さん 「どのあたりにサインすればいいかな。」 Daisuke 「そうですねー,あんまり目立たないところに,よく見ればあるよという感じがいいですよね。」 数原さん 「そうだねー。いつもはどうやってかついでるの?……じゃぁ,この辺がいいかな。」
そういって数原さんはワタシの釣りバッグ風ラッパケースにペンを走らせてくださった。そして
数原さん 「このケースはダブル?中ちょっと見せてよ。」
と。ワタシはケースを開けて,これが新宿のDAC(使用楽器のページ参照)で買ったものであることと,中のしくみを簡単に説明する。ここがチャンスとばかりワタシは息せき切ったように話を続ける。
Daisuke 「数原さんの楽器はヤマハなんですか?それとチューニングスライドからのびているレバーは何に使うんですか?」 数原さん 「ラッパはヤマハだけど,特注だからねぇ。レバーはHighBbキーで,引くとつば抜きみたいに穴が開くんだよ。」 Daisuke 「ハイ・トーンを吹くときにエアを抜くわけですか?」 数原さん 「そういうこと。つば抜きとしては使わないけどね。」 Daisuke 「演奏中にチューニングスライドが左手の操作で動いていたように思うんですが?」
(われながらよく見てたな〜^.^;)数原さん 「まわりがピッチ目茶苦茶だからねぇ(笑)。僕のは3番が動かないから全部チューニングスライドで調節だよ。
やっぱり3番管は使っていないと動かなくなるねぇ(笑)。」※注 数原さんのTpはヤマハの“銀座アトリエ”特注のYTR−933X。チューニングスライドから2本のレバーが伸びており1本はHighBbキー,もう1本がチューニングスライド操作用とのことである。つまり演奏しながら左手の指を使って2本のレバーを巧みに操作しているということだ。チューニングスライドはまるでTbの様に動くそうだ。 Daisuke 「今日,数原さんのお名前は“すすむ”と紹介されていたみたいですが?」 数原さん 「本名は『すすむ』なんだよ。これはね…」
数原さんの話によると,かつて数原さんが「宮間利之とニュー・ハード」に在籍した頃,リーダーの宮間さんが数原さんの紹介をするときに『晋』が『すすむ』と読めずに『しん』と紹介してしまったらしい。そこで数原さんが「それでいいです」ということで『かずはらしん』という名前が使われるようになったのだとか。WBでもずっと『かずはらしん』だったが,あるとき数原さんがこのことを前田さんに話したらそれ以後,前田さんは本名で数原さんの紹介をするようになったそうだ。なるほど〜,90へぇ。
さて,こんな話をしている間にも数原さんの横をいろんな人が声をかけながら通り過ぎていく。でも数原さんはワタシの質問にいずれも丁寧に答えてくださった。本当はもっといろんなことを聞きたいと事前には思っていたのだが,すでに時計は23時。ワタシは御礼もそこそこにサインをしてもらったラッパケースを抱えて店を後にした。数原さんはワタシと前後してラッパのマルチケースと旅行に使うようなバッグを抱えて銀座の街へと消えていった。
こうして,「来てよかった」という言葉だけではとても言い尽くせない4時間にも及ぶ初体験のライブは幕を閉じた。WBはほぼ月1で銀座スイングでのライブを行っているが,さすがに毎月はムリ。でも,会員権は半年来店がないと失効するらしいので,最低でも向こう半年以内にはまた来たい。ライブが土曜日なら1泊2日で来れるなーなどと考えながらワタシは銀座を後にした。次回への期待に胸を躍らせながら…。
<本日の演奏曲目(抜粋)>※「 」はライブ中の前田さんのコメントです。 | |
Co-operation / N.MAEDA | WBのライブでは必ずといってよいほどオープニングで演奏される曲(のようです)。 |
I Remember Clifford | 若くして交通事故で不慮の死を遂げた天才トランペッター,クリフォード・ブラウンにベニー・ゴルソンが捧げた曲。「何年か振りにやったなぁ」 |
Take Five | リクエストは早くからあったが,「これは最後にやります」。 |
Night Walker / N.MAEDA | 前田さんが11PM(知らない人も多いか?)のために書き下ろした曲。「非常にイイ曲です」と自画自賛。 |
Take the 'A' Train | “A列車で行こう” |
Watermelon Man | クインシー・ジョーンズのナンバー。スバル・フォレスターのCMでも使われていましたね。レパートリーにはなかったが即興で演奏。終わった後「今後しばらく今のアレンジでいこう(笑)」 |
Daahoud | クリフォード・ブラウンのナンバー。「40年も前によくこんな曲を書いたもんだ。アドリブの教科書みたいな曲」。 |
Pink Panther | 説明不要。 |
Happy Birthday To You | ライブ当日が誕生日の人はWBの生演奏で“Happy Birthday To You”がプレゼントされます。「今月が誕生日の人もドゾ」。 |
I'm Getting Sentimental Over You | “センチになって” |
The Days Of Wine And Roses | “酒とバラの日々” |
When You Wish Upon A Star | “星に願いを” |
この他にも“Speak Low”,“Five Spot After Dark”,“Newyork Newyork”,“Opus One”,“Summertime”など,タイトルのわからない曲も含めて20曲以上演奏された。 |
え?レポートになってないって?