連載めるまが小説


 世の中には厄介事の方からやってくるって人と、厄介事にわざわざ首を突
っ込む人とがいるんだと思う。
 きっとあの人は後者だ。
 僕はいまだに彼女の事をよく知らないけど、夏にあった無茶苦茶なあの2
人の話をしようと思う。

 「君に特別任務を与えようと思ってるんだよ」
 そう言って課長は、いつもの半分寝ているような顔を上げた。大陸北部警
察ゼリエス署広域捜査課・・・通称なんでも課の窓際に座る、50がらみの
昼行灯然としたおっさんだ。 
「はぁ」
 間の抜けた返事をしながら課長のデスクに置いてある書類に目を落とす。
ここ最近出没している怪盗団「ワルキューレ」による被害届の山だった。
「これからわかるように『ワルキューレ』は金持ちしか狙わない、いわゆる
義賊らしくてね。上の人達がなんとかしてくれってお達しがきてるんだよ」
 言いながら、デスクの中をあさって9枚の写真を発掘する。
「これだけ居て、この顔のはっきりわかる2人が何でも屋を兼業してるよう
なんだよ」
「・・・・僕に探って来いっていうことですか」
「話が早くていいねぇ。平凡で若い君なら怪しまれないだろうし」
 ・・・・そういうものなんだろうか・・・・。
「まぁ準備はこっちでしてあげるよ」
 ということで資料を渡され、僕はゼフィーリスの街へ飛ばされた。
 仲介人には話が通してあるらしく、目的の人達には路地裏の店で会えた。
写真と同じ、長い黒髪と金髪の2人に声をかけると、背の高い黒髪の方が口
を開いた。
 「何だ、依頼か?」
「え・ああ。そうだけど」 
「あんたは?」
「ウィリアム・リーナスって者だけど、ヨシノシティまで護衛を頼みたいん
だ」
 資料・・・いや台本通りに答えて、僕は2人の名前を訊いた。
「何だ名前も知んねーでシゴト頼んだのか?」
 あきれた声で僕を見たけれど、すぐににやっと笑って言った。
「コイツが相棒の影で、オレは刃。性別スリーサイズ年齢は秘密。ってコト
でドーゾよろしく久々の依頼人殿」
 それが、僕と彼女達との出会いだった。


 資料に付いていた隠し撮りの写真を見ていたとはいえ、思っていたより若い二人に
僕が少し戸惑っていると、刃さんはついていたテーブルの椅子をすすめて、
「シゴトを受ける前にちょっと訊くが、あんた誰にオレらの事きいたんだ?」
「え、カリーナタウンのジェイスっていう情報屋に」
 これも台本通りに答える。
「・・・・・・ジェイス?」
 首をひねる刃さんに内心冷や汗をかくが、
「・・・ああ、あのバカか」
 言ってにやりと笑った。凛として中性的だった顔が、その笑い方のせいで途端に悪人
じみてくる。
 隣に座っている影という子はクリームあんみつと格闘していて、大きな緑の瞳が可愛
らしくて10才くらいに見える。 
「・・・ロリコンの気でもあんのかリーナスさんよ」
 影ちゃん(そう呼ぶことにした)を眺めていると、ジト目で刃さんに睨まれた。
 この人は背も高そうだし声も低い。20代手前か、僕と同じくらいかもしれない。
「言っとくが影はオレのだからな。手ェ出すなよ。それで------」
 そこまで言いかけたところで、店の入り口の方が騒がしくなった。見るといかにもなご
ろつきが5・6人いて・・・すぐにこっちに気付き、何かを口々に言いながら近寄ってき
た。驚いて僕は身をかたくするが、目的は刃さんだったらしく。
「よぉ。久しぶりじゃねぇか」
 頭領格らしいゴツい男がにやにやと声をかける。
「誰だっけェ?てめえらみたいなバカの顔なんざいちいち覚えちゃいねーんだ」
 まるっきり相手を馬鹿にした態度で喧嘩を売って------案の定大乱闘が始まった。


 慌てて飛び込んだテーブルの下では、いつのまにかあんみつをたいらげてしまった影ち
ゃんが満足そうな顔をしている。
「ねぇ。大丈夫?」
「はぁ・・・。・・・びっくりしないの?」
「えー。いつもの事だもん。だからね、やいばはイライニンの人にはかならず『オレに依
頼した以上文句は言うな』っていうんだよ」
 真似た声色が本人そっくりだった事に少し驚き、それから外の音が静かになったのに気
付いた。
「カタァついたぞ」
 ひょいと刃さんの顔がのぞく。大立ちまわりをした割には無傷で息も切れてない。テー
ブルの下から出ると、辺りにはボコボコにされたさっきの男達が倒れていた。
「・・・強いんですね」
「強いィ?」
 呆れまじりに呟いた一言に、影ちゃんに手を貸していた刃さんが声を裏返らせた。
「そいつらが弱ェんだよ。オレごときにやられるようじゃかなりのへっぽこだな」
 はっはっはーと笑って立ったその背丈は僕と同じくらいだった。


 刃さんが髪をかき上げて席につき直すと、無人だったカウンターの中にマスターら
しき男が現れた。店内の惨状を見た途端、
「店ン中で暴れんなっつってるだろうがこのクソガキ!」
「ウルセェよバカオヤジが!文句があんならそこでのびてる阿呆に言いやがれ」
「脳みそまで筋肉で出来てるような野郎にもの言ってやる程俺は暇じゃねえんだよ」
「----------・・・まあそりゃもっともだ」
 あっさりと納得して椅子にもたれる。マスターの方も「だろ?」とか言いながら片
付けを始めた。当然のごとく、2・3人いた客はもういない。
「で?護衛っつったよな。何処まで何しにいくんだ?」
 くるりとこっちを向いて、何事も無かったように言う。さっきのやりとりからみて、
ここはいきつけの店らしい。報告書にも書いておこうか。
「ヨシノシティーまで重要書類を届けに行くんだ」
「書類ねぇ・・郵便使えよンなもん。・・・ってあんたに言ってもしょうがねぇけど」
「なんだか色々と狙われているらしいよ。よく知らないけど」
「ふぅん・・・。ヨシノ・・・吉乃か」
 言ったきり、口を閉ざして視線をさまよわせる。となりで影ちゃんが欠伸をした。
「・・・おっけ。受けよう。で、オレに依頼した以上文句は言うな。それから報酬は成
功したときだけもらう。これでいいな?」
「ああ」
「こーしょーせーりつだね♪」
 嬉しそうに影ちゃんが言った。

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