序
奴は唐突にやってきて、全部をひっかきまわして帰って行きやがった。 野良猫みたいな行動パターンで好き勝手してまわり・・・。 ・・・まぁいい。とりあえず奴の話だ。
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ドアを開けると美人がいた。 俺は何も言わずにそのまま閉めた。とりあえず。 きょろきょろと狭い家の中を見回して、それからドアをじっと見て、ここが自分ち で自分の部屋の前なことを確認する。 そこに何で女が。しかも美人。そして背中を向けてはいたが・・・裸。 それならまだ何とかなる。・・・たぶん。 でもそいつの背中には羽があった。長い髪と同じ色の黒い翼。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・大丈夫か俺。 色々と考えて、俺がふらふらと水でも飲みに行こうとしたとき、さっき閉めたドア が内側から開いた。ひょいと隙間から顔がのぞく。 「悪ィ。勝手に侵入しちまった」 その笑顔に力が抜けた。 俺は勉強もスポーツもそこそこできてちょっと硬派とか言われてる高校生で親もど こにでもいるような二人で共働きで、いつも家が無人のときはしっかり鍵がかかって いたはずだ。今日も俺が帰ってきたときは鍵を開けて入ってきたし、玄関や他の部屋 は散らかっていなかった。階段をあがって何も考えずに部屋に入ろうとしたら------ これだ。 「・・・で?どちら様」 自分の部屋なのに何で床に座ってんだとか思いながら、ベッドの上で腕と足を組ん でいる女を見上げる。今はシーツを巻いていて、あの羽は見間違いだったのかもう無 い。しかしシーツなんかを巻きつけたせいで強調された胸の谷間ときわどい裾の辺り が正面にあって、目のやり場に困って・・・どうも落ち着かない。 「はー。どちら様って言われてもなぁ。・・・とりあえずオレは刃ってんだ。逆咲刃。 あんたは?」 「明・・・岩瀬明」 思ったより低い声をぼーっと聞きながら、うわの空で答える。 「アキラ。ふぅん。・・・・・・で?どこ見てんだよこの野郎」 「痛」 問答無用で足蹴にされて、やっと刃とかいう女の顔を見た。すこしきつめの顔で、 俺を見下げている瞳は青空みたいな色をしていた。外人か? 「鼻の下伸ばしてんじゃねーよ色ボケが」 何とか、言い返そうとした言葉をのみこんで、訊く。 「どこから来たんだあんたは」 「んー・・・明ってったっけ?あんた神とか異世界とかそーゆー話通じる奴?」 そいつが言った言葉に・・・・沈黙が降りた。 「・・・・・・・悪いが精神科の医者に知り合いいねぇんだ俺」 「ええい普通の反応しやがって」 「宗教の勧誘ならほかを--------」 「違うとゆーに」 もういいと言うように手をふって、ため息をひとつつくと、 「オレ、行き場ねーから。とりあえず居着かせてもらうわ。よろしく」 「いやよろしくって」 「明日辺りあーゆー話通じる奴連れてきたら色々話してやるよ」 そう言ったきり、そいつは俺のベッドに寝転がったかと思うと、そのまま寝やがっ た。