連載めるまが小説


 衝撃で目がさめた。
 ぐえとか何とかうめいて目を開けると、かなりギリギリの格好のあいつがベッドか
らずり落ちて、俺の上に転がっていた。
 シャツ一枚。そして視界のほとんどが胸で占められていたりする。
 頭ん中が一気に覚めた。
 そこから目が離せないまま固まってかなり混乱。何て言うかこんなん初めてだしっ
つーか大体女兄弟居ないしこいつ胸でかいし寝顔だし。
 ・・・あいにく顔は首を曲げたくらいじゃ届かない位置にあった。
 -----------って何考えてる俺!?
 おろおろおたおたしていると、急に奴の目が開いた。
「・・・・・・あれ?」
 起き上がってきょろきょろした後、
「何、なんかした?」
「・・・あんたが落ちてきたんだろーが」
 腹の上に座られつつも何とかうめくと、奴はかくんと首をかしげてぼーっとした顔
のまましばらく頭なんかかいていたが、
「あ、そ」
「とか言って寝ようとすんなぁ!」
「あ゛〜悪ィ」
 やっと頭も起きたらしく、もそもそと定位置--------元俺のベッドの上に戻った。
大あくびを一つして、起き上がった俺を横目で見る。
「・・・そか。あんたんちに・・・」
 後半はむにゃむにゃと聞き取れなかったが。
「そーいやあんた、昨日メシどうしたんだ?」
「んー?ンなモンどーにかしよーとすりゃ何とでもなる」
 枕もとに投げてあった服を引っかけながら、
「てかさー、昨日色々本とか漫画とかエロ本とか見て回ったけど」
「何でエロ本・・・」
「イヤあったから。んで思ったんだけど、面白そだからオレ学校ついてって良い?」
「はぁ?無理だっての。大体あんた先生とかに会ったらどい言い訳するつもりだよ」
「むー。そっか・・・」
 ぬうとかうめいてまたベッドに倒れこんだ。その隙に俺は急いで着替える。
 と、そろそろ腹も減ってくる頃、したに下りようとドアを開けた俺に、顔だけ上げ
た奴が、
「あの二人、面白ェからまた連れてきてくれねー?」
「いいけど・・・それまであんた、何してるつもりだ?」
「んっふっふ。秘密」
「秘密って・・・」
 謎の笑みなんか浮かべる奴に、一瞬色々と想像してみたりするが、
「なァに。街ン中ウロつくだけさね」
 へへへと笑うと、また布団に顔を埋めた。
「・・・・・・」
 悪い予感だけを残して、一応俺は学校に行くことにした。

「なーにソレ!絶対来るに決まってんじゃんてゆーかお約束よ」
「それで一騒動起こるのが鉄則」
「・・・あのなぁ」
 今朝のはなしを遼に少しするとこうだ。同じクラスの遼はともかく、何故か一番遠
いクラスの夏姫がいつのまにか居る。授業が始まるのはまだ後だからいいらしいが。
「おまえら漫画の見すぎだろ」
「だってそうなってくれないと面白くないじゃんねぇ」
「そうだよ。ついでにそんな話してると本人が転校生ですとか言って紹介された挙句
隣の席になったりして、ごいんとか頭打ってくれないと」
「誰がそこまでするか!」
「面白みのない男ねー」
「そんな面白味なんぞいらんわ」
 とか何とかかけあいとしていると、予鈴が鳴り始めた。
「あ、そろそろ逃げるわねー」
「そだね。最果てまで急いでねー」
「おう夏姫。今日も来てくれっつってたぞアレが」
「ええぇ!ほんと?らっきぃ♪」
 目を輝かせて飛び出ていく。廊下にいるやつらのぎょっとした顔が見えたが、まぁ
いつものことだ。
「で、ついでに遼も」
「え?僕ついで!?」
 色々わめく遼を放っといて、俺は1時間目の準備を始めた。

 6時間目は自習だった。これをチャンスと質問攻めにしてくる遼に、用足しと言っ
て、俺は屋上へ上がった。一人で一息くらいつきたい。
 扉を開けた途端、風が吹き付けてくる。下を向きながら出ると、授業中で誰もいな
いはずのそこに、もうひとつ影があるのに気付いた。振り返っても誰も居なかったが
--------視線を上げて驚いた。
 出入り口の扉が付いている建物の上で、黒ずくめのそいつはポケットに手をつっこ
んで髪を風になびかせ、横顔は目を閉じていた。それだけならまだいいが、ついでに
大きく例の羽根を広げたまま少し浮いていた。刃だ。
 慌てて辺りを見回すが、体育をやっているクラスもなく誰もいなかった。
 ここにこんなのが居るのを見られやしないかと、どきどきしながら奴を眺めている
と、やがてふっと目を開いた。
「よお」
 道で偶然会ったように声をかけたかと思うと、ばさりと羽根を動かして降りてくる。
「・・・何やってんだこんなとこで」
「何って。風が気持ちよかったからここでぼーっと」
「見つかったらどうするんだよそんなもの生やして!」
 力いっぱいその黒い羽根を指差すが、
「あれ?意外ー。あんましビビらねーのなお前。一回脅かしたのに」
 言って、見せびらかすように広げてみせる。
「目の前にあるんだから信じるしかねえだろ。それ以外にどうしろっていうんだ?」
「んーまァ言われてみりゃそーだな」
 あっさり納得すると、唐突に羽根を消した。
「・・・・便利なんだな」
「いーだろ。ってアレってば実際、物質じゃねーらしいから・・・」
「ああいや、説明はいいから」
「そ」
 笑って、フェンスの方に歩いていく。
「しっかし面白ェなぁ、こっちのガッコってのは」
「そっちにも学校ってあるのか?」
「ああ。大体一緒だな。っても教えてる中身はちょっと違うが」
 かしゃんとフェンスに手をかけると、片手の力だけで上に飛び乗った。
「んじゃオレ今ここいらの探検中だから行くわ。お前が帰って来る頃にゃ部屋に居っ
から。じゃーな」
 それだけ言ってふちを軽く蹴ると、一気に翼を広げて舞い上がっていった。
「・・・何しにきたんだよ結局」
 取り残されたかたちになって、少しの間つっ立っていたが、俺は教室に帰る事にし
た。
 とりあえず遼のやつに予想は外れたぞと言ってやろう。
 

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