連載めるまが小説


 

(・・・機嫌悪くしたのかしら)
 そう思いながら、日が経っていく。
 あれから刃は来ない。
 突然、話の途中に窓から帰ってったきり。
 月がもう細くなってて、ランプを点けてないと暗い。
 アタシの気分もそれなりにクラい。って言うか目がすわってそーな気がする。
 今日ガッコで、あんまし気に入らない奴に刃と同じような事を言われた。
「・・・なーんのつもりなんだかねー。あのとがり目女」
 頬杖をついてグチ気味に呟くと、
「そりゃオレの事かオイ」
「きゃあ!」
 声の主は天井から降ってきた。
「わーりィ。ちょっとシゴトだのだんちょー殿の説教だのでごたごたしててな。って
も別に約束とかしてたワケじゃねーからいっか」
 事情とイイワケを一方的に言う刃にアタシは、
「・・・そーねー」
「何だァ?そのダルそーな顔は」
 椅子に座って、目線を合わせてくる。
「・・・ちょーっとね。ガッコでムカつく事があったの。そゆコトにしといて」
「何だそりゃ。じゃとがり目女ってのもガッコの奴か」
「そーよ。あの無表情ったらいーっつもひと見下してアタシの事バカにすんのー!っ
て思い出したらまたムカついてきたー!」
 頭抱えてきーとか叫ぶアタシに、刃はイヤそーに笑って、
「うっわー。すんげー知り合いに居そー」
「腕組んで横目でこっち見てどうしてそうなるのか理解できんなとか言うのよー」
「それでやたらと人に説教すんだーな」
「自分が一番頭いーって思ってんのよアイツはー!当然のことだろうがとかってったりして」
「そう言っといて自分もコケんだよな」
「そーなのよ!エラそーにしといてー!」
「・・・・・・ってかさ」
「何」
「今思ったけど」
 はたりとテンション落とした刃は、力いっぱいイヤそーな疲れたよーな顔で言った。
「・・・ソレ、同一人物じゃねー?」
「・・・・・・・・・。」
 沈黙。
 頭を抱えていた手を落とす。
「・・・名前、は?」
 おそるおそる言った、次の言葉は見事にハモった。
『如月唯』
 顔を見合わせた少しの間の後、刃があわてて言った。
「や、ヤメようこの話」 「そーね・・・」
 二人同時にタメ息をつくと、
「あ、唯って言えば」
「その話止めってったでしょ今アンタが」
「イヤまーそうだが。こないだ真緒ってクローンだっつったろ」
「そうだけど」
 唯とどういうつながりで出て来るんだかわかんないけど。
「クローン技術とかホムンクルス関係って実践禁止されてなかったっけか?」
「・・・・・・。」
 あんまり基本的なアホ発言に、アタシは絶句した。
「・・・アンタ今頃気付いたの?」
「あっはっは。何せ稼業が稼業だし知り合いも禁止とか言われてる事フツーに無視し
てる連中ばっかだかんなー」 「あーそー」
 テキトーに返事をすると、
「ったらおまえ、ガッコとかの書類どーしてんだ?」
「フツーに娘って事になってるわ。だーから余計に色々言われるんだけど」
「ふゥん。じゃ『真央』が子供作れなかったっての知ってた奴にゃどうしてんだ?」
「・・・・・・何それ」  きいたこと無い。
 目を見開くアタシに、
「あれ?知らねーのおまえ」
 きょとんと言うと、刃はすぐに興味をなくしたみたいに、頬杖をついて窓の方に目
を向ける。
「別に知らねーならソレでいいけど」
「良くないわよ!どういうこと?」
「どーもこーも無ェよ・・・言ったまんまだ」
 目だけでこっちを向いて、
「そっから先はオレが言う事じゃねーさ」
「・・・自分で調べろって事?」
 言うと、刃は目を外に戻して、
「・・・。ひとんちの事情あれこれ言う気は無ェ」
「・・・・・・」
 そっけなく言われて、アタシも黙り込む。
 しんとしたなかで、風の音がよくきこえる。
 窓の外に目を向けたままの刃の顔は、厳しい表情をしていて----それがだんだん何
かたまんない顔になってきた。そして大きく長く息を吐くと、
「っだー!暗ェ!ちくしょー!」
 椅子に反り返って叫んで、すぐにがばとはね起きる。
「性に会わねーんだよこーゆー沈んだなァ!」
 突然の変化に、アタシは瞬きを何度かしてから答える。
「・・・アンタが話振ったんじゃない」
「イヤまーそーだがー」
 うーとか言いながら、困って頭をかく刃。
 面白がってちょっとの間眺めてから、言ってみた。
「・・・そいえばさ」 「何だ?」
「さっきアンタ唯のコト知ってるってったわよね」
「その話ヤメにしよーっつったっていったってったろーがよ」
 よくわかんない返事をされるけど、かまわず続ける。
「どういう知り合いなの?」
「どうって・・・別にそう特別な知り合いってワケじゃねーが」
「じゃ何よ」
「知り合い。・・・・・・百歩以上譲って悪友」
 無理矢理っぽい無表情で言われて、
「・・・そお」  こっちも短く答える。
 刃の知り合いってコトは、唯もワルキューレに何か関係があるんじゃないかとか思
ったんだけど。でも百歩以上譲って悪友とか言うから、とりあえず仲良しってワケじ
ゃなさそうなんだけど。
 微妙な間の後、刃が付け足した。
「唯やらオレと相棒やらは色々勉強習った先生が一緒なんだよ」
「・・・ルーシェ博士?」 「ああ」
「ってゆーか相棒??」
「あれ?言ってなかったっけか?オレの相棒。かーわいいんだこれが」
 相好を崩すってこういうのなんだろなって顔をすると、刃はふと気付いたように言
った。
「そうだな。オレの話殆どしてなかったか」
 ふっと息を吐くと、刃は続けた。
「さっき言っちまったから、相棒のハナシからすっかな」
「何て名前なの?」
「キルシェっつってな、オレの昔っからの相棒だ」
「昔っからって・・・アンタまだ15じゃないの?」
「おう。一緒に育ったから相棒っつーかきょーだいみてェなもんなんだがな」
「みたいなってコトは血はつながってないのね」
「多分な。オレも影も先代の拾われてきたかんなー」
 その言葉に引っかかって----アタシは細かいトコにツッコミを入れた。
「影ってったわね今。相棒さんてキルシェじゃなかったっけ?」
 すると、刃ははっと硬直して、
「うあ。今の忘れてくれ。キルシェだキルシェ」
 わたわた言うけど、にやっとわらって返す。
「ふーん。ワルキューレでの名前がキルシェっていうのね」
「・・・・・・。ちくしょーオレとしたことが・・・」
 頭抱えて呻く刃を眺めて楽しんでから、アタシは話を戻した。
「・・・拾われっ子ね・・・親ナシってトコはアタシと一緒ね」
 言うと、刃はひょこと顔をあげて、
「親無しじゃねーさ。オレも真緒も」 「へ?」
「オレは一応あの二人の事ただの保護者たァ思ってねーし、真緒は確実に血がつなが
ってんだ。・・・まァオレんとこのは始めっから名前で呼べっつったり、専門的な技
術ガキに教えたり何考えてんだって連中だがな」
 言葉を探すように窓の外をちらっと見て、続ける。
「オレも含めて大抵の奴ァ敵わねーくらい強いクセに、どうしょーもなくバカな連中
で・・・何てーんだろなー。ダチみてェなモンかな?」
 照れくさそうに笑う刃に、アタシは思わず小さく呟いた。
「・・・生きてるんなら、いいじゃない?」
「何」
 訊き返されて、はっと声のトーンを上げる。
「友達みたいなのって最高なんじゃない?ソレ。血がつながってるとか何とかさ、そ
ゆの抜きにして頼れるひとが居るっていうの」
 すると、刃はきょとんとアタシの方を見たまま瞬きを何度かした。
「・・・何。アタシ何かヘンは事言った?」
「・・・・・・イヤ。その」
 すこしの間の後、感心したように続ける。
「思いつかなかった。そゆ発想。っはー」
 そしておもむろに立ち上がったかと思うと、
「きゃあ!何!?何のつもり!?」
 いきなり座ったままのアタシに、覆い被さるかたちで抱きついてきた。
「んー。何のつもりってオレがこうしたいから」
「ってソレ答えんなってないわよー!」
「ははー真緒って可愛かったんだなー」
「今のどっからそーゆー発想なのよー!そりゃアタシはかわいいけどー!」
「うーむ。自分で言う辺り真緒らしくて良し。」
「『良し』じゃなくてー!!」
 何考えてんだかワケわかんないってんのに。
 ぎゃーぎゃー言ってたらそのうち気が済んだらしく、刃はアタシの頭をがしがし撫
でると、
「今日はもう遅ェから続きはまた今度だ」
 満面の笑顔で、いつものように窓から帰っていった。
 それを眺めたまんまでいて、アタシははっと気付いて叫んだ。
「またお子様扱いされたー!」 

 

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